新たな大地

 目覚めは寂しくて、それでいてもの悲しさを含んでいた。小学校の遠足の日に雨が降っていた時のようなどんよりとした、それでいてちょっと安心したような想いに満たされていた。あれ・・・?なんか昨日はもっとすっきりした目覚めだったはずなんだか?何かがずれている。パズルのピースがかみ合わないとかじゃない。俺の中の何かがここは違うと警鐘を鳴らしている。


 「おはよう。」

自室のドアが開くと同時に・・・挨拶をしながらお袋が部屋に入ってきた。そうか・・・3日前に飼い犬のシルカが亡くなって、立ち直れない俺を心配してくれているんだな。

「ありがとう。大丈夫だよ。」俺はお袋にそう返答してランドセルをとろうと手を伸ばそうと・・・あれ・・・?ランドセル・・・?シルカ・・・?


 やっぱり何かがおかしい。ここは違う・・・。ここじゃないんだ・・・。

俺の中の何かが騒ぐ・・・。騒々しい・・・。

「やっぱり・・・あなたは違うのね?またやり直しなのね?」

そうつぶやくお袋はちょっと悲しそうな笑みを浮かべていた。そのセリフの意味が、俺には何のことかわからなかったが、猛烈な眠気に襲われて、俺の世界は暗闇に閉ざされた。


・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・


 目が覚めると、そこにはいつも通りの天井が広がっていた。見慣れた天井のシミ、ちょっと汗臭い布団のにおい、時を刻むことを忘れたとけい、ニートになってから10年以上もめくられないカレンダー。すべてが俺に安心感をもたらしてくれた。ようやく俺はこの部屋に帰ってきたのだ。そんな風にほっと一息をついた。


 そうだよ。いつもはここで邪魔が入るんだよ・・・。

邪魔?誰が邪魔するんだ?あれ・・・?いつも誰が迎えに来るんだ?誰がこの世界を壊すんだ?

痛い・・・。頭が痛い・・・。何か記憶を呼び起こそうとすると頭が割れそうになる。誰かが俺の頭の中に直接何かを話しかけているようだ。違う・・・。いつも俺を見守っているのは・・・そうじゃない・・・俺は・・・俺は・・・・。


 あれから1時間以上たっただろうか。机の上に散らばった色とりどりの薬・・・。ちょっと眠たくなりそうな名前の薬の空き瓶。たくさん飲むために、寝落ちしないようにあわせたコーヒーみたいな名前の錠剤。そして筋肉の緊張をほぐしてリラックスできそうな薬。もうすべてが嫌になって、俺はこの狭間の世界から抜け出す決心をした。


 さようなら・・・。俺のくだらない人生。さようなら・・・。これ以上進展しない俺の人生。誰に挨拶するでもなく、俺はひっそりと人生の幕を閉じたのであった。

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