新たな大地

 目覚めは眩しくて、それでいてワクワクした。いや、自室で普通に目が覚めたのだが、いつもと違い世界が輝いていた。いつも目が覚めると、晴れていても曇天のような心に重いとばりがおりていた。起き上がることもおっくうだし、目が覚めなきゃいいのにと思っていた。


 今日はそんな嫌な気持ちがない。なにかこう、夏休みの小学生のようにワクワクしている。何か新しいことに挑戦できそうな、そんな新鮮な興奮に犯されていた。つまりはこういうことなんだな・・・。そう。こういうのを待っていたんだよ。この何でもできそうな万能感。これさえあれば俺は何でもできる。これでニートともおさらばだ!


 そんな明るい気持ちに背中を押されて、俺は久々にリビングへ行ってみた。もう何年ぶりかわからない。お袋もさぞかし驚くことだろう。そんな意地の悪い興奮を抱えながらリビングの扉を開く・・・。


 しかし、そこには何もなかった。いや、テーブルはあったが、ただっぴろい部屋にテーブルだけがある。確かに俺の家のリビングは広い。おおよそ20畳ぐらいある。しかし、この部屋はヘクタール級だ。リビングではなく学校の校庭ぐらい広い。これは何かがおかしい。一度、リビングの扉を閉じた。きっと寝ぼけていたのだろう。洗面で顔を洗い、再度リビングの扉を開いた。そこにはいつも通りのリビングがあった。


 「おはよう秋人。ご飯できてるわよ。」

そこには、まだ子供と呼ぶような幼い少女が立っていた。誰だこいつ・・・?どんなに記憶をさかのぼっても、その少女の顔を思い出すことができない。ひょっとして、知らないうちに妹でも生まれていたのか・・・?そんな疑問が頭を駆け巡る。俺の怪訝そうな顔を見て察したのか、その少女が俺に歩み寄って耳元でささやいた。


 「だめだよ。この世界では。すべてを思い出しちゃいけないんだよ。」

その少女の言うことが理解できない。思い出す?この世界?なんの話しをしているんだ?俺はその疑問をぶつけようと口を開こうとしたが、彼女に遮られてしまった。


 「今日もSWするんでしょ?今日はどこの狩場に行く?私は今日も黄泉の森に行きたいな~」

少女は昨日と同じ狩場に行こうよと誘う友人のように、俺に一緒にSWプレイしようと誘ってきた。確かに、10年ぐらい前はこういったやりとりをしていた。リア友と時間を合わせて狩場に行ったり、ギルメンとも同じようなやり取りをしていた。しかし、こんな少女との記憶はない。夢にしてはあまりにも出来すぎている。


 「君は誰なんだい?ここはどこなんだい?」

俺はやっとのことで少女に質問することができた。いや、質問させられたと言ったほうがいいのか?すべてはその少女に誘導されるように口をついて出た。その質問をすると同時に俺は強い頭痛に襲われた。


 「だめだよ。この世界では。すべてを思い出しちゃいけないんだよ。」

先ほど聞いた言葉を、その少女は繰り返す・・・。意味が分からない。何を思い出すというんだ?この世界とはなんだ?俺はそんな疑問を抱えながら・・・”玄関を開けた”


 ガチャッ・・・ドッドッドッ

俺は背後のドアが開いたのに気付くのと同時に、お袋が駆け寄る気配に気づいた。あー・・・そういうことか。その瞬間俺はすべてを察した。この世界は、きっと俺がニートであることを望んでいる。いや、ニートの俺いがい受け入れることができないのであろう。


 すでに死んだ俺のうたかたの世界だから・・・記憶の範囲内でしか繰り返せないのか、それともここは異世界なのかわからない。ただ分かったことは、俺はこの繰り返しの世界から抜け出すことができないということだ。つまり、俺はこのままニートを続けることしかできないのである。どんなに晴れやかな気持ちになっても、玄関のドアは開けられない。記憶にないことをしても、きっと玄関から追い出されてしまいGAMEOVERなんだろう。


 このホラーみたいな汚染された世界で、俺はニート生活を続けるしかないのか・・・。せっかく、せっかくあの暗い世界から抜け出せたと思ったのに・・・。親の顔以上に見た異世界転生物の世界に来たし、デスループの世界にやってこれたのに・・・この世界は俺のニート生活しか受け入れてくれないようである。こうなったら、ニートを極めてやろう・・・そう気持ちを固めた瞬間、俺は自室のベッドに戻される抗えない力に引っ張られるのであった。

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