壊れていく現実

 ワン・・・ワン・・・

相変わらずシルカが吠えている。まだ4月だというのに外はうだるような暑さに包まれている。もうセミが鳴いてもおかしくない気候じゃないか?異常気象とはよく言うが、さすがにこれはやりすぎだろう。どう考えてもおかしい。


 もう一つおかしいのが、玄関に向かって歩いて、ドアを開けて・・・このあたりで記憶が混濁する。確かにドアを開けて、何かしようと考えていたのだが何をしようとしたのか思い出せない。手に握った血まみれの包丁が、何か非日常的な行為を示しているが何も思い出すことができない。俺は何をしたんだ・・・?


 外の暑さにあてられて玄関に戻ると、そこにはうごめく肉塊が転がっていた。手に握られた包丁と見比べて、俺がこんなことをしたのだろうという結論に至った。しかし、こいつは誰だ?髪は長く伸び、服は黄ばみ体は何か月も風呂に入っていないのじゃないかというくらい汚れている・・・。


 きっとホームレスが強盗に入ってきて、俺が反撃したのかな?そう、それ以外考えられない。玄関のたたきに転がる肉塊と、俺の手に握られる包丁から導き出される結論はそれ以外ないのである。


 「キャー!!」

突然、家の中から叫び声が聞こえそちらを振り向いた。そこには、まだ子供と呼べるような幼い年齢の少女が立っていた。●さなきゃ!!●せっ!!頭の中で誰かが叫ぶ。その声の命令を俺は理解した。こいつを逃がしてはいけない!やらなきゃだめだ。そう思い俺は手に握られた包丁を振り上げた。


・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・


 気が付くと、俺はハンマーを握って玄関に立っていた。

あれ?俺は何を?何をしていたんだ?


 ワン・・・ワン・・・ワン・・・

外でシルカが吠えている。あーそうだ。シルカをしつけに来たんだ。ちゃんとしなきゃ。俺がしっかりしないと。そう思って玄関のドアノブに手をかける。それと同時に後ろの母親の部屋のドアが開く音が聞こえた。


 ドッドッド・・・

お袋が走り寄るのがわかる。その瞬間全てを思い出した。そう・・・このまま俺は刺されるんだ。そして玄に転がる肉塊になる・・・。あの空虚な肉細工になるんだ。そう思った瞬間、ちょっと愉しさが込み上げてきた。こんなクソみたいな人生・・・。どうせ自分で終止符を打つことができないし、立ち上がることもできない。もうすべてを終わりにしたかった。「ごめんよ。母さん・・・ごめんよ。父さん・・・。」生んでくれてありがとう・・・。

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