食えない笑顔
ざるそば
第1話
アラームとともに微かな朝の日差しが、窓越しに身体へと刺激を送る。
気だるく重い体を起き上がらせるこの時間は憂鬱で、未だに朝には慣れない。
隣の枕では記憶にない髪の長い女が不機嫌そうに眠っていた。
昨夜の飲みで勢いに任せて持ち帰ってしまった事を後悔してしまいそうなほどに、顔は酷いと言える。
少し酒を飲んだだけで目の前の女性が魅力的に見えるのはなぜだろうか。そんな事を考えながら洗面所に向かった。
いつもの歯ブラシと歯磨き粉を両手に持って素早く終わらせ、顔を洗ってから支度をする。
使い古された作業着は、洗濯されずそのまま昨日の仕事の疲れが染みついていて、それを着ると体が重い。
準備を適当に済ませた後、まだ眠っている女を置いて玄関の鍵を閉めた。
真夏日での出勤は足どりが重くなるような気がする。かと言って、冬での出勤に慣れているかと言われたらそうでも無い。夏になれば冬を懐かしく思い、冬になれば夏を懐かしく思う。ないものねだりとは正にこういう事ではないのだろうか。
なんて考えていたら嫌でも仕事場に着いてしまう。何も考えずに重い足を引きずるよりかはマシか。街ゆく人と同等に足を合わせて歩いている自分は、傍から見ると馬鹿馬鹿しく見えて笑いが込み上げてきた。
食えない笑顔 ざるそば @zarusoba8
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