第6話 白と黒

私が返事をすれば、とても綺麗な顔で微笑む第三の管理者さん。


「ふふ、はい。ありがとうございます。では、これからの話をしましょう」


彼女はそう言うと、私の両手を包み込んで祈るように目を閉じた。


「先ほどお伝えした通り、クティノシレスタは獣人の世界です。人間と獣人と魔物がいますが、こちらの世界で言う魔王と言われる魔物を統べる存在はいません」


そこから、あちらの世界の簡単な説明をしてくれた。

使用されている魔法は、火、風、水、地、光、闇、無の7属性に分けられており、1人で1属性、多くても2属性しか使えないこと。

魔物とは意思疎通が取れないため、どのような姿でも意思疎通が取れる際はすべて獣人であること。

動物時代の種族ごとに国や街、村などを作っているが、弱い種族は強い種族の保護下にあるため、協力して生活している国なども存在すること。


「基本的に、魔力量が多い人が強いとされています。あとは動物時代の名残でしょうか?戦闘面で見れば、ライオンやクマ、ゾウたちが強く、ネズミやウサギは弱いなどの傾向にありますね」

「そういう強さなんかは魔力でも血筋とか種族的なものが関係するんですか?」

「そうですね。血筋や種族で魔力量や属性が決まることはあります。動物時代に食物連鎖のヒエラルキーが高かった種族は魔力量が高いことが多いです」

「…となると、人間はどこに入りますか?」

「人間は、…最弱?」

「最弱!?」


思わず大きな声を出してしまう。


「あ、中には強い人間もいます!ただ、人間は魔力よりも手先の器用さが重要視されていますね。力が強ければ強いほど、不器用なんです。魔力操作や手先を使う作業は人間や魔力が少ない方たちが得意だとか。そのため、服飾や薬作りなんかでは重宝されていますよ」

「ははぁ、なるほど」

「灰祢さんは魔法が使いたいですか?」

「それは、もう!せっかく魔法がある世界だし、それなりに魔法が使えたら嬉しいなとは思ってます!」

「ふふ、そうですよね。ええと…」


第三の管理者さんは、マシロとクロガネに視線を向けて何かを確認する。


「マシロさんが、火と光。クロガネさんが、地と闇の属性魔法が使えるようです。折角ですし、灰祢さんはその他の風、水、無属性が使えるようにしちゃいましょう!」


そう言うと、彼女は握っている両手にぎゅっと力を入れて目を瞑る。その瞬間、何か温かいものが体中を巡り、目の前がチカチカと瞬いた。


「はい。これで、属性付与は完了しました。魔力量は私が決めることができないので、あちらの世界に行ってからのお楽しみということで」

「い、今の一瞬でですか!?いや、それよりもさっき、使える魔法は多くても2属性って…3属性になってますけど、大丈夫ですかね?」

「ええ、3属性使用できる方は大変に珍しいですが、いないことはない…ので問題ないです。ただ、あまり言いふらさないようにした方がいいでしょうね」


頬に手を当ててにっこりと微笑む第三の管理者さん。

この人、ちょいちょい気になる間があるんだけどツッコんじゃだめだよね…


「…わかりました、気を付けます…」

「是非そうしてください。あとは…向こうへ送る際、クティノシレスタに適応した身体にするので今の見た目と少し変わると思いますが、そのあたりはご了承くださいね」

「ハッ!よくある、幼児化したり性転換したりするやつですか!?」

「それほど大げさに体のフォルムが変えることはできないんです。ただ、あちらの世界では体毛が使用する属性によって変わってきます。火属性を使用する方は赤系、水属性を使用する方は青系、みたいなかんじで」

「へぇ、それはカラフルそうですね…じゃあ、複数属性使える人はどうなるんですか?」

「基本的にはその方が一番得意な属性の色になりますよ。灰祢さんは属性が水と風と無になるので、青か緑か灰色でしょうか」

「わぁ、こっちだと目を引きそうな色ですね」


青や緑に染めたいだなんて思ったこともなかったから、少しワクワクしてしまう。


「あっ!あと、貴方たちをお送りする場所のお話ですね!貴方たちは、少し大きめな街の外れにある森小屋にお送りしようと思っています。小さめではありますが旅人用の小屋なので、それなりに綺麗ですよ。

近くには優しい種族の村もあるので、小屋で諸々ご確認後そちらに向かってもよろしいかと」

「にゃっ!」


私が返事をする前に、マシロが返事をする。いつのまにか私と第三の管理者さんの間で綺麗にお座りをしているマシロは、爛々と目を輝かせて彼女の話を聞いていた。

クロガネは、先ほどから私の膝の上で丸まって寝ている。何にも興味を持つマシロとは反対に、マイペースで甘えたなクロガネ。

真っ白と真っ黒で真逆の色味をしているが、性格も真反対のようだ。

ただ、顔はとても綺麗な顔をしているので、きっと猫界でもモテモテ間違いなしだろうな…と思っている。


「そういえば、この2人は兄弟なんでしょうか?」

「ええ、双子ですよ」

「双子!他に兄弟やご両親は…」

「うーんと…この子たちは少々特殊な産まれでして…両親も他の兄弟もいません」

「そうなんですね…じゃあ、私とお揃いだ」

「にゃう」


マシロもそれほど気にしていないようで、私のお揃いという言葉に嬉しそうに反応してくれる。


「私がここで細かくお伝えするよりもあちらの世界に実際に行って体験する方が早く慣れるでしょうし、そろそろ送らせて頂いてもよろしいですか?」

「はい!問題な、…あ!この部屋とか、仕事はどうなりますか?」

「こちらの世界では灰祢さんは死んだことになります。そのため、灰祢さんたちをお送りした後に、私が灰祢さんの遠い親戚として処理しておきますのでご安心ください」

「本当ですか?ありがとうございます!」

「いえ、灰祢さんにはクティノシレスタを救っていただかないといけませんからね。これくらいは全然!」


他に私からの質問がないことを確認した第三の管理者さんは、私の手を引いて立ち上がって恭しく頭を下げる。


「改めまして、灰祢 瑠衣様。彼らノアの一族を助けてくださり、本当にありがとうございました。皆様の物語が綴られ、世界樹へ導かれますように」


「では、お元気で」


顔を上げ、にこりと微笑む彼女に返事をしようと口を開けた時にはもう、目の前は緑生い茂る森の中だった。


「……はやいよ、管理者さん…」


苦笑いしていると、後ろからドンッと何かがぶつかった。

急いで振り返れば、私の腰ほどの位置に頭が2つ。そっとその頭に手を乗せれば、同時に顔を上げて満面の笑みで「ルイ!」と私の名前を呼んだ。


「マシロとクロガネ、かな?」

「そう!あのね、あのね、ルイっ!えっと、えっとね、」

「ルイ、ルイと一緒でうれしい。ルイと、マシロと、一緒にこれた」

「僕もうれしい!ね、ルイ、ルイもうれしい?うれしいでしょ?」

「私も嬉しいよ」


地面に膝をついて2人と目を合わせる。

サラサラで太陽の光を紡いだような透き通ったブロンドの髪と、澄んだ空よりも綺麗な碧眼のマシロ。

ふわふわで日本人の私よりも濃い漆黒の髪と、熟れた柘榴を煮詰めたジャムのようにとろりと甘そうな赤眼のクロガネ。

小学1年生くらいの大きさで、思ったよりもハキハキと言葉を発する。もうすこし幼いかと思ってたけど、そこそこ大きかったようだ。


「これからもよろしくね」

「よろしくねっ!」

「ん、よろしく」


2人を抱きしめて声をかければ、力いっぱいに抱きしめられる。って、ちょっと、ま、まって、力が!力が強い!!

私が震えていると、クロガネがハッとしてマシロを軽く叩く。


「マシロ、ちから気を付けて。ルイが痛い」

「!そうだった!ごめん、ルイ…痛かった?」


うるうるの瞳で申し訳なさそうに眉を下げるマシロ。まって、かわ……可愛すぎない!?


「い、いや、大丈夫だよ。もう少し力を抜いてくれたら、丁度いいくらいかな!」

「わかった!」


もう一度ギュウと抱き着かれるが、次は加減してくれたのか痛くはなかった。


「とりあえず、小屋に入ってみよっか」

「うん!こっちだよ!」

「ん」


2人と手を繋いで、引っ張られながら小屋へ向かう。

これからのこの世界での暮らしに胸を躍らせて。


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