第5話 生命エネルギー
「そうですね。痛みについては、まったくないので安心して頂けると」
にこりと微笑む第三の管理者さん。
「生命エネルギーとは読んで字のごとく、命や存在自体のエネルギーを指します。そのため、灰祢さんのおっしゃる通り、生命エネルギーを消費すれば寿命や存在感などは減ってしまいますね。
ただ、リンゴと木の幹を比べた際に、木の幹の方が何百倍も大きく強いですよね?それと一緒で、地球で生きてきた貴方はクティノシレスタにとって生命エネルギーが強すぎて毒となってしまうんです。
もし今のまま、あちらの世界に行くのであれば…そうですね、寿命が1万歳は超えちゃうかな?」
「い、1万歳ですか?」
「はい、1万歳です。一応、クティノシレスタでも人間の寿命平均は大体80歳前後だし、例外を除いて寿命が長い種族で300歳ほどですので、まぁ…途方もない人生でしょうね。
それに寿命じゃなく存在感も強くなってしまうので、様々な人に執着されたり目立ったりは日常茶飯事でしょう。まともな生活は送れないんじゃないかなと」
「ウッ…そ、それは勘弁願いたいです……」
「はい。それは私たちも望みません。なのでどちらにしろ、貴方をあちらに連れていくには生命エネルギーを減らす必要があります。しかし、そんな貴方の膨大な生命エネルギーを吸っただけのクティノシレスタでは、余分にエネルギーをため込んでしまい暴発してしまうでしょうね」
「暴発!?世界が無くなってしまうってことですか?」
「ギリギリ保つか、無くなるかは私ではわかりませんが…半分は弾け飛ぶかと」
「ヒェ」
「貴方は約30年間、地球で過ごしていますからね。それほどに、この地球という世界は私たちにとって大きく、偉大な存在であるともいえます」
私が行くだけで世界の半分が爆発しちゃうなんて怖すぎない!?ただ地球で普通に生きてきただけなのに、チート通り越して殺戮兵器になってるなんて…
「しかしですね?今は先ほどご説明した通り、傷を修繕するためにできるだけ多くの生命エネルギーが欲しいんです。貴方から頂いたエネルギー量では修繕しても余ってしまうかもしれませんが、余りは管理者でおいしく頂けるほどの量なので問題ないのです。
と、なんとまぁ、貴方がこちらにくることをお膳立てされているかの如く、貴方が来ていただけるだけですべての問題が解決してしまうのですよ」
第三の管理者さんは、ね?お得でしょう?と首を傾げて言う。
あまりにも現実味がなくてしっかり理解できていないかもしれないが、今の話を聞いた感じそんなに悪くはない…と、思う。
何より、このまま2匹と別れて地球でまた冷えた日常を過ごすよりは、大変でもいいから2匹と一緒に居たい。そう、思った。
「確かに、そう聞いちゃうと本当にお得だなって思います。…偶々でしたが、あの日公園に行って、マシロとクロガネに会えてよかった」
2匹の背中を撫でると、喉をゴロゴロと鳴らして答えてくれる。
「偶然の重なりは運命になるのだと、第一の管理者が言っていました。貴方たちが出会い、こちらの世界に来ることはもしかしたら前から決まっていたのかもしれませんね。灰祢さんの周りは人が集まりにくかったでしょう?」
突然のちくちく言葉に、ウッと言葉が詰まる。
「まぁ、そうですね」
どうしようか迷ったが、マシロとクロガネが首を傾げてこちらを見つめていたので、説明することにした。といっても、そんな気がしただけで、猫に理解できるかはわからないけど。
「まぁ、よくある話です。父親は私が高校生の時に蒸発しました。そして、高校卒業と同時に母親は外に男を作り出ていって、その後は一切連絡を取ってないので両親とはすでに縁が切れていると思います。両親は駆け落ち同然だったらしく、頼れる親戚も居ませんでした。
友人というのも、学校生活の中で話す人はいたけど、私生活で遊ぶことは一度もなかったですね。
ちゃんと人とコミュニケーションは取れているはず…なんですが、イマイチうまく続かなくって」
「な~う」
「んに…」
肩を竦めて話す私に、マシロとクロガネがスリスリと頭を擦り励ましてくれる。それを見てふと、幼少期で飼っていた犬を思い出す。
「だけど、小さい頃から飼っていた犬がいつもそばにいてくれました。私が成人してすぐ死んじゃいましたけど…でも、犬が死んでしまった後も外を歩けば散歩中の子や野良の子が寄ってきてくれてましたね。そう考えると、私は人間よりも動物との方が相性がいいのかも、なんて」
自分で言っておいてなんだが、人間よりも動物と相性がいいだなんて可笑しくって笑ってしまう。社会人としてどうなんだろうか。
しかし、歴代のペットたちは親よりも私に愛をくれた。ハルとアキ、それにグッピーの軍三郎。
魚なんて飼い主を認識できるかわからないのに、私が呼べば軍三郎は寄ってきて話を聞いてくれた。
マシロとクロガネだって、1ヶ月ちょっとしか一緒にいないのに、こんなに懐いてくれている。
「それはきっと、貴方がクティノシレスタに行くのに心残りを無くすためでしょうね」
第三の管理者さんがにこりと笑う。
「灰祢さん。クティノシレスタは、獣人の世界です。元は地球と同じ人間と獣が生きていましたが、長い年月をかけて獣が人型を取るようになり、そこからまた長い年月をかけて獣人が増え、人間が減ってしまった世界なんです。今の割合は…9割9分が獣人、残りが人間でしょうか?いえ、1分も居ませんね。人間は絶滅危惧種となってしまっているんですが…居ないことはないです」
「にゃう」
「ええ、そうですね。マシロとクロガネも。猫…の獣人ですよ」
「え?マシロとクロガネもですか?」
「はい。人型になるためには魔力が必要なんですが、地球には魔力がないため人型になれなかったようですね」
ジッと2匹…いや、2人?を見つめる。2人はうんうんと頷いて「にゃう」と鳴いた。
もしかして、今までもただ一方通行と思っていた会話はしっかりと理解して返答してくれていたのかな。
「クティノシレスタには、動物はもういません。その代わり…といってはなんですが、魔物がいます。魔物を家畜化したり、外で狩って食料や素材にしたりしていますね」
「魔物…もしかして、魔法があったり?」
「ええ、こちらでは異世界といえば、って感じでしょうか。ご想像通りの魔法がありますよ」
本当に魔法があるんだ!ワクワクした視線を管理者さんに向けてしまう。
「あらあら、魔法はお好きですか?そうですね、詳しいお話をする前に…どうでしょう?灰祢さん、クティノシレスタに来ませんか?」
マシロとクロガネがあちらの世界に帰らなければいけないというのであれば、答えは1つしかない。
2人それぞれに目を合わせる。
「にゃん!」
「んなぁ」
いつもと変わらない2人。どこにいっても、彼らがいれば私は大丈夫だ。
「是非、連れて行ってください」
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