夢の中へ(前編)
「ああ……夏の終わりはどうしてこんなに寂しくなる香りがするのでしょうか。それはプリンの上にかかったほろ苦いカラメルのよう……」
「先生、詩人ですね。今の表現、とっても好きです」
そう言って私の前に紅茶を置いたシャロンは、軽くあくびをしました。
ふむ……
「シャロン、先ほどから生あくびが多いですが、夜はちゃんと眠れていますか?」
すると、シャロンはなぜか顔を赤らめて「は、はい……おかげさまで」と妙に濁したお返事。
何か気になりますね。
「え~、全然寝れてないじゃん。シャロン、昨夜も夜中に起き出して何かニヤニヤしながら外歩いてたでしょ」
セシルが眉をひそめながら言うと、シャロンは目を泳がせてそっぽを向いています。
「ふむ、もしキチンと眠れないのなら、その原因を……」
そう言うと、窓の外から1匹のリスが飛び込んできて、何やらお手紙を渡してきました。
これは……カリン先生から。
しかも外側には「封印の魔法あり。エミリア以外は読むべからず」と。
私は無言で封印を解除すると、中に目を通しました。
おやおや、いきなり1行目から「必要時は諸国を巡っているであろうセシル・ライトに助力を求めるべし」と。
まあ、本人は目の前に居るのですが……
何はともあれ穏やかではないですね。
どれどれ……
ふむ。
読み終わった私は手紙を閉じると、そのまま指からの魔法で焼却しました。
「あ、先生。燃やして……良かったのですか?」
「はい。どうやらセシル・ライトへのお説教だったようで。彼女も読みたくないでしょうし」
「え~! 先生、私に説教するヒマがあったら、自分が修行しろって」
そう言いながら、セシルは一瞬真顔になって私を見ました。
ほう、流石は親友。
今ので察したようですね。
「そ、そうですか……セシルさんも大変ですね……ふわあ……」
「あらあら、シャロン。また生あくびを……まあ、セシルは自業自得ですので。さて、では今日は何して遊びましょうか……」
●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇
その夜。
お部屋で寝ているシャロンを見下ろしながら、私とセシルは顔を見合わせます。
「しかし、こんな所に『夢魔』が現れるとはね……魔法使いの里から逃げたの?」
「ええ。研究室から逃げ出したようです。それで捕まえた本人である私に復讐しようとやってきた所、本能に逆らえずに美味しそうな夢を持つシャロンの中に飛び込んでしまったようだ、と……」
「へえ、夢魔が珍しいね……そんなお腹空かせた子供みたいな……どんな夢見てたんだろ、シャロン」
「私に関連した夢であればあるいは……ただ、夢魔は夢の中を自由にコントロールし、取り憑いた主を衰弱させる。実際、シャロンは日々熟睡できず強い眠気を感じている。早急に取り除かないとですね」
「オッケー。じゃあ、行こうか。シャロンちゃんの夢の中へ」
「はい。では……」
私たちは2人で詠唱を始めました。
それは最初はバラバラに。
徐々に重なり初め、次第に異なる音程の詠唱はハーモニーのようになっていきます。
そして、その響きは心地よい音となり……
●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇
おやおや、これはこれは……
シャロンの夢の中に飛び込んだ私とセシルは、ポカンとしながら見回します。
夢の中のカラーはシャロンらしく、清楚ながらも可愛らしい薄いブルーやピンク。
そして、無数の色つきの雲や木々がフワフワと浮かんでいます。
ただ、問題はそこでは無くシャロンの気配を感じて中に入った、3階建てのブルーのお屋敷。
「まさにエミリア・ザ・ワールドって感じだね……」
まさに。
お屋敷の中は雨の飴やトール・ソース。
雪の結晶や月光のショールなど、今まで私が出した物で1杯。
そして、壁には私の絵が所狭しと飾られており、なんとなんと私の石膏像まであるではありませんか。
ポカンとしながら見ていると、いきなりシャロンの声が聞こえました。
「あらあら、これはこれは。私とエミリアの愛の巣にどんなご用?」
ビックリして声の方を見ると、そこには別人のような大人びたプロポーションのシャロンが、これまた別人の様な蠱惑的なドレスを着ています。
「まあ、シャロン。見違えるようですね」
私がパチパチ拍手すると、シャロンは不快そうに眉をひそめます。
「なぜ、私の事を知ってるの? エミリア・ローの妻である、このシャロン・ローの事を」
「あらあら……」
シャロンったら……妻、って……
顔を真っ赤にしてオロオロしてしまった私に代わり、セシルが話してくれました。
「ねえ、シャロン。私たち、貴方の夢を操っている夢魔を倒しに来たの。どこに居るの? 教えてくれない」
すると、シャロンは分かりやすく顔を引きつらせると「そんなの……知らない」とそっぽを向きました。
とはいえ、このシャロンは夢魔では無い。
あくまで彼女の深層意識。
と、なるとシャロンの意識が意図的に匿っていると言うことですね……
しかし、深層意識は面白いですね。
シャロンの願望なのでしょうか。口調までも別人です。
そんなシャロンは私を見ながら言いました。
「あなた、エミリアの偽物? あり得ないんだけど……存在自体」
「いえいえ、正真正銘本物ですよ。良ければ確かめてみますか?」
「結構よ。私とエミリアの愛は偽物ごときに壊せない。丁度いいわ。上にいらっしゃい。私たちの愛を見せてあげる。それで身の程を思い知って出て行きなさい」
妖しげな笑みでそう言うと、シャロンは上に上がっていきました。
「あらら……シャロンの深層意識を見てしまった……絶対内緒にしといてあげないとね。私と、特にエミリアに見られたと分かったら、あの子立ち直れないよ」
「あの……私も結構、恥ずかしいのですが……」
「エミリアは来てよ! これ、夢魔が美味しそうと思うわけだよ。なにさ、このピンク色ほわほわの夢! これ、夢魔が取り憑いたのって、間接的にはエミリアのせいだよ!」
「そんな……」
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