色とりどりの雫の玉(後編)
「ふむ、いい感じに色々と散りばめられてるではないですか。さぁ、早速始めましょうか」
「はい、先生」
興奮を隠し切れないシャロンの声を聞きながら、私は早速詠唱を始めます。
「我が目に映る万物よ。七つの鍵にて開く扉より、仮初めの姿を示せ」
現れた万物の繭をふよふよと漂わせながら、私は手ごろなつらら石に向かって繭をひょいっと軽く飛ばしました。
すると万物の繭の中で「ころん、ころん」と沢山の澄んだ音が響きました。
ふむ、バッチリですね。
私は繭をそっと抱えると地面に置き、銀の棒でそっと叩きました。
すると「ぱっかん」と軽やかな音と共に割れた繭の中には、沢山の淡い色の雫の粒が……
それは淡い緑だったり、海のような深い青だったり、水晶のように透明だったり。
中には漆黒の雫もあったりします。
「ふむふむ。いい感じではないですか」
「わあ……綺麗」
「はい。この鍾乳洞。この国の中でも最も広大な面積を持つ場所。そして豊富な水源を持ち、歴史の長い場所ゆえ内部は様々な形となっている。このような場所で取れる水滴は周囲の光の屈折によって、とっても鮮やかな色彩を孕んだ水滴になるのですよ……そして、とっても美味なのです」
「先生……やっぱりそこに行きますね」
「そんな呆れたような顔しないで下さい……よっ、と」
私はそう言いながら、シャロンのお口の中に水滴の雫をひょいっと入れました。
「え!? ……甘い、でも爽やか」
「ふふっ、この鍾乳洞で取れるスイーツはまさにそれ。甘いだけでなく、お口の中が爽やかになる清涼感溢れる甘さなのです。だからいくらでも食べれちゃう」
私もシャロンに続いてひょいぱく、ひょいぱくと雫の飴をお口に入れました。
う~ん、疲れた身体に染み渡る……
「あ、先生! 雫が……」
「あ……」
いけないいけない。夢中になってつい食べすぎちゃいました。
また採らねばです……
それから再度採取した私たちは鍾乳洞を出て、空中浮遊の魔法によってお家への帰路についていました。
春の暖かい空気とうららかな日の光に包まれ、目の前には大きな雲……
眼下には広大な緑の森。
「空を飛ぶって素敵なんですね……ずっとこうしてたいかも」
「はい。私も大好きです。あ! そうだ。せっかくだからスイーツの追加もしましょう。久々の豪勢なスイーツパーティですからね」
私は再度万物の繭を出して、今度は目の前に広がる雲に向かって飛ばしました。
しゃああ~
と、なにやら粒をかき回す音と共に、繭は戻ってきました。
「よしよし、いい子ですね。さて、では帰りましょうか。この雲のスイーツもセシルの好物なのですよ」
●○●○●○●○●○●○●○●○
それから小屋に帰った私たちは、まず繭の中から雲のスイーツを取り出します。
綿のようになった雲は、味見すると舌にスーッと溶けて行き、濃厚な甘味に顔がほころびます。
「ふむふむ、良い雲さんでしたね。シャロン、あなたも味見をどうですか?」
「先生! また無くなりますよ。その程度に」
あ、そうでした。
危ない危ない……
慌てて、採取してきた鍾乳洞の雫を広げました。
さてさて……
それから食いしんぼバッグから事前に万物の繭にて変換した様々な細長い棒……炎や水、光や木々の緑……が元になったものを並べて、目の前の小さなお皿に火球を浮かばせました。
「さて、シャロン。今から工作の時間です」
「……な、何をするんです?」
「ふふふ……まあ、見ててください」
そう言うと、私は片手に小さくて長いトングで漆黒の雫を挟み、火に近づけます。
もう片手に真っ赤な棒を持つとそれを火のそばで温めます。
すると棒がへにゃ、っと柔らかくなったので、それを漆黒の雫の表面に4箇所の点を打ち、今度は針に持ち替えて暖めて柔らかくなった、4箇所の点の真ん中をグイっと突くと、4つの点の端が伸びてあら不思議……
「うわあ……お花みたい」
「ですです。今度は1個だけ点を打って、上から下に引っかくと……」
「わあ! ハート模様になってる……」
「はい。ただの飴ではつまらないので、このような模様つきの飴とかもおつではないでしょうか」
「……あ、あの……先生。私も」
目を輝かせているシャロンに、道具をそっと手渡しました。
「もちろんです。そのつもりでトング、針も用意してますよ。一緒に遊びましょ」
それから二人で笑いあいながら、沢山のハートやお花模様の雫飴を作りました。
「では、味見してみましょうか」
せっせと作ったお花やハートの雫飴を口に入れると……
「あ、お花の飴……甘酸っぱい! でも爽やかな……」
「こっちのハートの飴は、何ともフルーティな甘みが加わってますね。それでいて元の雫飴の爽やかさも相まって……ふむ、では飾り付けと行きましょうね」
それから程なくして、我が家にやってきたセシル・ライトは、すっかり散らかったテーブルの上を見て目を白黒させながらも、雲の綿状になったお菓子や雫飴の数々に目をキラキラ。
幸せな気分に包まれた親友の誕生日祝いを、夜も更けるまで楽しませていただきました。
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