カリン先生と時の天幕(後編)
「はい……私も……」
ああ、感極まるってこういう事を言うのでしょうか。
魔女の里を出てから1年。
里を捨てるつもりで出奔した私がまさかまたお会いできるとは……
カリン先生は私を見ると、次に隣にいるシャロンに目を向けました。
「こちらの可愛い女の子は?」
「あ、この子は……」
慌てて紹介しようとすると、シャロンはペコリと頭を下げて言いました。
「私はシャロン・ラメリィと言います。先月、エミリア先生に麓の街で助けて頂くだけで無く、帰るところの無い私を引き取って下さいました」
「それはそれは……私はカリン・ブラッドウェル。エミリア・ローと……こちらの大嘘つき、セシル・ライトに魔法を教えていたわ」
「シャロン、それに加えて私はこの方に救われたのです……色々と」
「この……方に?」
「はい。私は元々、異国の岩山の奥地を根城にして旅の冒険者から金品を巻き上げていたのですよ」
「え! マジで!?」
セシル・ライトが心底ビックリした、と言う表情で私を見ていました。
あ、そうか。セシルには言ってませんでしたね。
「私もハーフエルフだったのですよ。それで迫害を受け続けて。物心ついたときすでに両親からも捨てられてた私は世界を憎んでました。だからその復讐と共にその日の食料を得るため物心ついたときに何故か使えたたった1つの魔法。氷の魔法で」
「そう。私がファブロー山……エミリアと初めて会った場所。そこを訪れたのはその山に『氷結の魔女』と呼ばれる少女がいる、と聞いたから。討伐のつもりだった」
「そして、戦った私は……こっぴどくやられちゃいました。それはもう気持ちいいほどに。で、その時にカリン先生に誘われて魔女の里に行ったのです。その時カリン先生に言って頂いた言葉……『無理に人を信じなくても良い。でも自分の魔法の才能だけは信じなさい。それを開花させようとする道具としての私の利用価値だけは信じなさい。そして……あなたを1人の幸せな少女にしたい、と願う私の事も』これは今でもハッキリ浮かびます
「そんな事あったんだ……」
「あの時のエミリア・ローを見たらあなたたちは仰天するでしょうね。何せ第一声が『氷像になりたくなくば消えろ。小娘』だったから」
「まあまあ、カリン先生。それは……言わない約束ですよ……昔の事とは言え、乙女の端くれにも置けませんもの。でも、それまで性を持たなかった私に『ロー』と言う字を頂けた事も含め、感謝しております」
おやおや、しゃべりすぎちゃいましたね。
温泉とはいえ、ちょっと身体も冷えてきました。
私はともかくセシルとカリン先生、それにシャロンを湯冷めさせるわけには行きません。
「さて、そろそろ出ましょうかみなさん。カリン先生もせっかくなので、小屋へどうぞ。おもてなしさせてください」
「そうそう! カリン先生、エミリアすっごく料理上手になってますよ。私も毎日それが楽しみで……」
「それで嘘ついてまでここに居座ろうとした訳ね。そんな料理なら楽しみだわ」
あらあら、セシルったらずっとお湯に浸かってるのに、顔色が悪いではありませんか……
「あの……実は明日の早朝に発とうと思ってました。……えへへ」
「そうなの。でも、もう大丈夫よ。こんなに長い間修行したのなら魔女の里に帰っても問題ないでしょ」
「え~! そんな!」
「……本音が出たわね、セシル・ライト。この……アンポンタン! サボってばかりせず、ちょっとは鍛錬なさい!」
※
「さて、カリン先生がせっかく来て頂いたのです。今回は取っておきのメニューでおもてなしさせてください」
そう言うと私は一足先に準備していた、別室にみんなを案内しました。
そこには無数の時計が置かれている部屋。
普通の時計から砂時計。果ては日時計まで。
様々な時計を作動させます。
そして……
「万物を統べる大いなるものよ。七つの鍵にて開く扉より、仮初めの姿を用いて世界の理を示せ」
呪文を詠唱しながら、意識の全てを周囲の時計に……いや、時計の刻む「時の流れ」に集中します。
時計の針……砂時計の砂……日時計の影……もっと……深く潜れ。
月の満ち欠け。日の動き。
人や動物や草木の変化。
そして……万物を構成する……小さな粒。
そうしていると、部屋の中に徐々に光の粒が縦や横……斜めや上に様々無い動き出しました。
そして、部屋は無数の広がり続ける砂のような無数の光の粒に包まれ……
「光が……広がってる」
「はい。今回は『時間を捕まえて見ました』とはいえ、流石にドームの中には入れられないので、このお部屋限定のミニチュアですけど。それでもこの部屋は紛れもなく時間の流れを捕まえてます」
無数の光の粒がまるで生きてるように、漆黒の空間の中を広がり続ける。
それはどこまでも果てない世界のように……
「どうですか? とっても綺麗……ですよ……ね」
そう言うと、私は目の前がクルクル回る感じになってきました。
「エミリア……大丈夫!」
カリン先生が慌てて駆け寄ると共に、部屋の中の光の粒は綺麗さっぱり消えて無くなりました。
あらら……ここまでが限界でしたね。
「エミリア……アンポンタン! 倒れるくらい無茶を……って……へ?」
目に涙を浮かべながら言ったカリン先生は、何故か綿潮お腹が鳴る音を聞くと、表情を引きつらせました。
「すいません。無茶しすぎてお腹が空きすぎたようです。シャロン、悪いけどご飯作ってくれます?」
「は……はい! ただいま!」
「さ、カリン先生も良ければ、一緒に召し上がりませんか? シャロンの作るオニオンとパンのスープは絶品ですよ」
「『絶品ですよ』じゃない……アンポンタン! 心配したでしょうが! 前から自分の魔力を制御しろ、って言ったでしょ!」
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