第22話:再び彼らと
後日、準備を終えてギルドに出立のためにやってくると、メレディアさんに手招きされた。
何事かと思ってそちらへ寄ると、一枚の金属のカードを渡される。
これは見たことがある。冒険者登録証だ。
「それじゃ、はいこれ」
「……なんですか?」
「臨時の冒険者登録証さ。ひとまずEランク相当の物を用意しておいたから、正式のものが出るまでこれを使いな」
臨時発行なんてあったのか。さっさと相談していればよかったのかもしれない。
いや、でもこれは指名依頼が入ったから携帯の許可が出た可能性もある。
なんとも言えない。
「……何の金属なんですかこれ」
冒険者登録証は金属の板で出来ている。その表面に凹凸を刻むことで、文字を表記している。
作成するのは結構大変そうだ。
折り曲げようとすると、少ししなって元に戻る。思ったより丈夫そうだ。
「ヘルドメタルって言うちょっと癖のある金属さ。加工が大変だけど、靭性が高くて壊れにくいし燃えないから使いやすいって言う金属さ。普通の金属だとすぐにダメにするやつが多くてね」
聞いたことのない金属だ。こういったものに使われるということはそこまで希少でもないのだろう。
今度どのようなものに使わているのか調べてみよう。
「提案があります!」
そうやって私とメレディアさんが話している間に割って入っていたのは、モニカさんだった。
後ろには準備ができているエイベンさんとガーディハーディ兄弟もいる。
「私たちを連れて行ってください!」
「……はい?」
私は意味が分からず、メレディアさんの方を見る。
メレディアさんはまた頭を抱えて困ったような表情をしていた。
「今リリィ先生が正規の冒険者登録証を持っていないのは、ランク決めに手間取っているからなんですよね? なら、私たちを引率して依頼を達成すれば、下位の冒険者育成の実績を作れます。それで、Dランク相当だと証明できるはずです!」
なるほど。モニカさんの提案は一見理にかなっている。
このまま協議され続けるぐらいなら、いっそのこと実績を見せて確定させてしまえばいい。
メレディアさんはこの提案には難色を示しているようだ。
私にはその理由がすぐにはわからなかった。
「そう言って、リリィについて行きたいだけだろう? 違うかい?」
「うっ……。ち、違います」
「目を合わせて言いな。まったく……」
……モニカさん。それはちょっと私もどうかと思う。
「遊びに行くわけじゃないんだ。本来、こういった魔物の状況調査ってのはDランク相当の依頼なのを理解しているかい? そろそろEランクとは言え、Fランクのあんたたちが着いていける仕事じゃないさ」
「危険なのはわかってます!」
「この間ダイウルフ四体程度で怪我を負ったパーティが何を言ってるんだか」
それを引き合いに出されると弱いのか、モニカさんは黙ってしまった。
ガーディハーディ兄弟は何か言いそうにしているが、エイベンさんに抑えられている。
エイベンさんはどういうスタンスなのか、話に加わろうとはしていないようだ。
「私が調査に出ている間、依頼があった村が襲われないとも限らないですよね?」
「リリィ?」
今回の依頼はきな臭いのだから、と注釈をつける。
メレディアさんは仕方がないとばかりに首を振った。
「私のいない間、村を守ってくれる人がいても良いのではないでしょうか。少なくとも、危険を感じて避難誘導させられる人員がいても良いと思います」
別にこれは優しさではない。
事態の状況の緊急性がわからないのなら、保険が欲しいというだけだ。
その影響でもし彼らが危険にあったとしても、申し出てくれたのであれば仕方がない側面もあると言ってしまえる。
少しずるいなと思う。もちろん、そのようなことがない様に守るつもりではあるし、危険な目に合わせる予定もない。
「それに、モニカさんが言っていることにも理がないわけではありません。このままでは、私は一向にこの町の外に出ることが叶いませんから」
「それは……ああ、もう、わかったよ。リリィの調査依頼はリリィのDランク昇格試験とする。そしてエイベン。お前たちのパーティは、リリィの手伝いをしな。指示には従う事。無事に実績を持って帰ってきたら、Fランクに昇格としてあげるよ」
モニカさんが両腕を上げて喜びを表現している。ガーディハーディ兄弟も同様だ。
エイベンさんは仕方がなさそうにそれらを見ている。私には申し訳なさそうな視線が送られた。
「ありがとうございますメレディアさん」
「いいさ。どうせならまとめてやった方が効率がいい。死ぬんじゃないよ」
諦めからか、メレディアさんは少し疲れている表情になっている。
「帰ってきたらリリィにはDランクの冒険者登録証を渡すからね。その仮登録証なくさないように気を付けるんだよ」
「はい、気を付けますね」
「あと、あの馬鹿どもが危険なことしない様に見張っておいておくれ」
本当に心配なのだろう。メレディアさんは今でも私が発言を取り消せば乗ってくれそうな雰囲気を醸し出している。
二言があるような真似はしないが。
「因みにこれ、打ち直しして使いまわししてるんですか?」
「細かいことは教えられないが、そうだね。一旦平らな板に戻して、その都度打ち直してるよ」
試しに冒険者登録証の凹凸部分を指で押してみる。凹みすらしなかった。
何か加工しやすくするための特殊な方法でもあるのだろうか。
「あの、受けてくださってありがとうございます」
私が冒険者登録証で遊んでいると、エイベンさんが話しかけてきた。
しまった。柄にもなく遊んで人を待たせてしまった。
「すみません。あの、見てましたよね」
「ええ。お気になさらず、モニカも同じことしてましたよ」
「ちょっと!」
大きく手を振って抗議するモニカさんが少し可愛くて、笑ってしまう。
ガーディハーディ兄弟も後ろで笑いを堪えている。
「でも、良かったんですか? 僕たちみたいな、言ってしまえば足手まといを連れていってくれるだなんて」
「いいんですよ。それに、私は足手まといだなんて思いません」
不安そうなエイベンさんを落ち着かせるように、私は柔らかな笑顔を作る。
何か端の方で別の人たちが反応したような気もするが気にしない。
「今回は調査が主な仕事ですからね。人手はあっても困りません。戦闘がメインでないので、人手が増えることは単純に情報の多さに繋がります」
これは本音だ。一人だと見逃しかねないことでも、複数人なら見つけられる。
調査依頼なのだから、見落としは避けるべきだろう。
それに、魔物関係の知識ならば私よりもエイベンさんたちの方が多いだろう。痕跡を見つけた際、どのような魔物がいるのか聞けるのは大きい。
何にしても、エイベンさんたちを連れていけるのは私にとって悪い話じゃない。
危なそうな雰囲気があれば、村に戻って村の守りを固めてもらい、万が一には住民の避難誘導をしてもらえる。
私はその間魔物を食い止めていればいいだろう。
万が一の時に取れる手段が増えるのはとても重要だ。
「では、またよろしくお願いいたしますね。エイベンさん」
「ああ、よろしく頼む」
「あーっ、エイベンだけずるい。私とも握手してリリィ先生!」
「はいはい、幾らでもしますから」
その後、ガーディハーディ兄弟もなぜか言い出して四人と握手することになった。
出発の時間は相談したところ、明日の朝と言う事になった。
行程は地図を見て再度確認し、最短経路からは少し外れるるものの、複数人でも通れて道中の休憩場所が確保できる道を選ぶこととなった。
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