あめいろ

九戸政景

本文

「はあ、すっかり濡れちゃったね」

「そ、そうだな……」



 誰もいない古びたバス停でクラスメートと並んで座る。クラスメートは雨で濡れた栗色の長い髪を気にしながら雨の様子を見ていたが、正直俺はそれどころじゃなかった。雨で濡れた事で制服が身体に張り付いており、その豊満な胸やくびれた腰つきといった健全な男子には刺激的なスタイルのよさがハッキリとわかるようになっていたからだ。



「あ、あのさ……」

「ん? あ、もしかして私を見てちょっとドキドキしちゃった? 君って意外とエッチだったりする?」

「ば、バカ言え! そ、そんなわけないだろ!?」



 声は震えており、動揺しているのは明らかだったからかクラスメートはクスクス笑うと、制服の首元を軽く引っ張りながら俺に身体を近づけてきた。



「ねえ、クイズしない?」

「クイズ?」

「そう。私が今日何色の下着つけてるか当てたらここで脱いで見せてあげてもいいよ」

「え、ええ!?」



 突然の事に俺が驚いていると、クラスメートはプルンとした唇を開いた。



「10、9……」

「え、今からなのか!?」

「8、7、6……」

「ま、待てって! そんな突然カウントダウンされても考える時間が……!」

「5、4、3、2……」

「く……し、白!」



 俺は大声で叫んだ。正直な事を言えば、白色の下着が好みだったのもあるし、着ていた制服の色が白だからそれで隠れて見えないのだろうと思ったからだ。クラスメートは俺の顔をジッと見ると、クスリと笑ってから立ち上がった。



「はい、残念。私の下着姿はお預けでーす」

「わ、わかるわけないだろ。こんな突然クイズを出されても」

「見たかったら死にものぐるいでも当ててほしかったけどね。君にだったら別に見せてもよかったし」

「え? それってどういう……」

「私、結構君の事を好きなんだよね。そういう純情そうなところもそうだけど、何かと気が利くところとか雨で張り付いて少し見えてる男らしい体つきとか」



 クラスメートは俺に顔を近づける。その顔がいつもとは違って色っぽく見え、俺はさらにドキドキしてしまった。



「ちょ、ちょっと……」

「ふふっ、これで君は私の虜になってくれたかな。そんな君に色だけは教えてあげるよ」

「い、色……」

「うん、そしてその色は……」



 クラスメートは唇がふれ合いそうな距離まで顔を近づける。心臓の鼓動はバクバクといっていて、今にも破裂しそうだった。そんな中、クラスメートは無邪気にニコリと笑う。



「雨色でしたー」

「あ、雨色……? 雨の色って事か?」

「そうだよ。といっても、もちろん無色透明じゃないよ」

「それじゃあ結局何色かわからないじゃないか!」

「ふふ、君のイメージする雨の色でいいんだよ。因みに、白って答えたのは……君が白の下着が好きだからかな?」

「わ、悪いかよ!」



 恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながらそっぽを向いていると、クラスメートは俺の顔を両手で挟んで自分の方に向けた。



「悪いなんて言ってないじゃん? でも、君が白の下着が好きなら次に出す時は白にしてこようかな」

「え……」

「その時こそクイズに正解してよ? 私、楽しみにしてるからさ」



 そう言うと、クラスメートはカバンを置いたまま雨の中に出ていく。濡れながらも楽しそうにするその姿はとても綺麗で、雨の妖精のようだった。



「雨の色……か」



 結局、その詳細はわからなかった。けれど、俺の目の前で降る雨はクラスメートの綺麗さを際立たせており、少し白い糸のように見えていた事から、俺には雨に濡れながらも楽しそうにするクラスメートが白いドレスを着て優雅に踊っているようにも見えていた。

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あめいろ 九戸政景 @2012712

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