性格が変わりました?

「言い過ぎたかな・・・・」


 俺は下校の道で一人歩きながら呟いた。


 言いたい事を伝え、逃げる様に美術室から出てきはいいものの、先程の自身の発言を振り返っていた。


 あそこまで言わなくても、ただ「嫌い」と伝えればよかった・・・気がする。


 どうしてあの時アイツに初恋の彼女の話なんてしたんだろう・・・

 別にアイツに伝える必要なんてなかったのに・・・


 俺は自宅に一歩近づくにつれ、さっきの自分が言った言葉を脳内再生していた。


 でもまぁ・・・あのくらいがちょうどいいか。

 これでアイツも明日からは美術室に来ないだろう・・・来ないよな・・・


 どうしても女の子相手に「嫌い」と伝えた事が引っかかっていたが、振り切る事にした。


 そうそう、アイツが俺にあんな態度をとるからいけないんだ!

 俺一応年上だぜ?あんな・・・会って一、二か月で生意気な態度を取って、俺を馬鹿にして・・・・


 自業自得じゃないか!

 何故俺が、アイツを気にかけなきゃいけない・・・・


 よし、今日は気分転換とアイツを追い払った祝杯を兼ねてゲームでもしよう。

 明日以降アイツに会う事も無いわけだし・・・


 * * * *


「あっ・・・お疲れ様です」


 次の日の放課後、いつもの様に部活に行くと日高がいた。


「お前、何でいんの?」

「別に・・・私がいて何か問題でも?」

「あっ・・・いや、別に・・・」


 特に変化のない態度に逆に俺の方が狼狽えてしまった。

 あっ、いや変化はあるのか?

 いつもなら開口一番に俺を馬鹿にしてくるコイツが今日はしおらしい程度で読書をしている・・・・俺の席で。


「そこ・・・その・・・」


 ・・・いつもなら『どけ!』と言ってどかせている所なのに、何故か今日は言いずらい・・・

 俺が言葉に困っている所を察したのか、日高は席を立った。


「すいません・・・ここ先輩の席でしたよね」

「あ・・・うん・・・」


 もう何なのコイツ!?

 いつもなら『そんなに私の座った後の席に座りたいんですか?キモッ!』くらい言ってきそうなのに・・・

 て言うか今謝った!!?


 日高は立ち上がり、窓際のベンチ椅子に座り読書を再開した。

 俺はその定位置に座りいつも通りに絵を描く準備を始める。


 ちょっと暖かい・・・今まで日高が座ってたからか?


 ・・・って何考えてんだ俺!

 これは普通にキモ発言だろっ!


 い、イカンイカン・・・冷静に。


 俺は落ち着きを取り戻し、イーゼルはセットしたスケッチブックに今日もペンを走らせる。


 しかしなんだ・・・もしかして効いてるのか?

 あの「嫌い」発言が効いてあんな感じになっているのか?

 なら喜ぶべき事だろ、俺・・・でもな・・・


「ここ、手前と奥のリンゴで鉛筆の太さを変えると大きさの違いがよくわかる様になりますよ?」


 そう考えながら絵を描いているといつのまにかか日高が俺の顔の真横まで来て、俺の絵を指さしながらアドバイスをくれた。


「お、おぉサンキュー・・・」


 何コイツゥ!!!

 俺にアドバイス・・・だと?


 いつもなら『こんな幼稚園児みたいな絵を描く才能の方が凄いですよ、流石画伯〜アハハ』くらいに言って馬鹿にしてるところだろ?


 流石の俺もいつもと違いすぎる態度が気持ち悪くなり口を開いた。


「なんなのお前・・・今日はまた新しいからかい方でも思いついたのか?」


 横を向き目の前の日高に質問をした。


「いえ、別に・・・先輩の絵が下手な落書きすぎて見てられないなぁと思って」


 いつも通りの俺を馬鹿にした発言だか、あまりイラッとしなかった・・・もしかして俺、慣れてきてるのか?


 とりあえずアドバイスを貰ったわけだし、その通りに鉛筆を変えて書こうとした時、また日高が口を開いた。


「あっそうだ、先輩」

「何だ?」

「今日・・・一緒に帰りませんか?」

「うん、あぁ・・・え!?」


 俺は多分聞き間違えをしている。

 まだ夕陽が出ていないのにこんな赤らめた表情であんなセリフを日高が言うはずがない。

 念の為聞き返しておこう。


「お前、今なんて言った?」

「だから、一緒に帰りたいって言いました」


 聞き間違いではなかった・・・


 あっそう言う事か!

 俺は日高のこの不可解を言動の正体が分かった。


「なんだ?また罰ゲームか?」

「はい?」


 俺の質問を理解できていないかの様に聞き返してくる日高。

 どうせこれはお前が、あのビッチギャル共と行ったゲームに違いない。


「だから、またゲームに負けて俺と一緒に帰る様に言われたのか?」


 罰ゲームでもなきゃ、こんな発言の意味がわからないからな。


 そう質問した俺の顔をジッと見つめた日高は特に怪しいそぶりもなく答えた。


「違いますよ、今日は何もしてませんし、他の友達は病欠してます・・・仮病って言ってましたけど」

「じゃあ・・・なんで」


 そう聞く俺に日高は言葉を続けた。


「先輩って記憶力無いんですか?」

「は?」


 俺を馬鹿にしただけだった。


「ただ一緒に帰りたいな・・・っと思っただけです」

「どうなんですか?一緒に帰ってくれるのか、くれないのか」


 その言葉に特に断る理由も・・・無いことはないか。

 よし・・・そこまで言うなら帰ってやる!

 それで真実を暴いてやる!!


 ありとあらゆる物陰を探してビッチ達を探してやる!!


「いいよ、もうちょいで終わるから本でも読んでてくれ」

「はい、その絵描き終わる見込みあったんですね」


 サラッと毒を吐いた日高の言葉を流し、今日の作業を終えた俺は初めて日高と共に美術室を・・・学校を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る