その人、別人だよ!!

 落ち着いて・・・・とりあえずいつも通りに会話をしよう・・・


 私はいつもの様に、美術室の前で深呼吸をした。


 近くの階段にはこちらを覗き見るクラスメイトが三人・・・


 さぁ、行くよ・・・


 私は覚悟を決め、扉を開けた。


「せんぱーい、今日も遊びにきて上げましたよ」

「へいへい、お前は毎日暇そうだな」


 ゆっくんの目はいつも通りの気怠い目、でもどこか雰囲気が変わっているように見えた。


「アハハハ、まーた落書きしてるんですか?」


 ゆっくんは昨日から書いていたリンゴの絵に手を付けていた。


「うっせなぁ、毎日言ってるが用事がないなら帰れよ」

「よ、用事がないわけじゃ・・・ないですけど・・・」


 夕日に頬が照らされ、私の顔が赤くなっている事を隠してくれている気がした。

 流石にまだ直視はできないので、横目でゆっくんを数度見る・・・


「先輩って今・・・付き合っている人っていますか?」

「いない・・・けど・・・・」

「じゃ、じゃあ大丈夫ですね」

「何が?」


 い、言うよ・・・私・・・


 落ち着いて、深呼吸をして、ずっと彼に告げたかった言葉を告げた。


「先輩・・・好きです。私と付き合ってください」


 私の言葉にゆっくんはその場で固まっていた。


「え・・・えっとそれは・・・・」

「実は俺も・・・・ずっとお前の事が・・・・」


 うそ・・・・これってもしかして、もしかするー


「・・・嫌いだ」


「え?」


 ・・・だよね。

 分かっていたのにいざそう言われると、つい反応を取ってしまった。


「なんだ、意外だったか?」

「当然だろ?こんな生意気で可愛げのない・・・・嘘告白までしてくる様な女なんて」

「どうしてそれを・・・」


 そう聞く私にゆっくんは言葉を続けた。


「たまたま聞こえたんだよ・・・ったくくだらない事しやがって」

「あっ『盗み聞きとかキモい〜』とか言ってきても無駄だからな」

「嘘とは言えお前は見下していた男にフラれたって事実は変わらないからなぁ」

「そもそも、お前は俺の好きなタイプじゃないし」


 好きなタイプ・・・・

 昔の私だったら・・・あの時勇気を出して話しかけて、十年前に会ったのが私だって言っていれば、今頃ゆっくんと・・・


「じゃ、じゃあ先輩の好きな人ってどんな人なんですか?タイプは?」

「は?なんで俺がお前なんかに好きな人を・・・タイプを教えなくちゃいけないんだよ」

「なんですか?私には言えないようなタイプなんですか?ダッサ!」


 何も考えずに発した言葉をごまかす様に私はまた汚い言葉を言ってしまう。


「んまぁ、いいだろう教えてやる!」

「はい・・・」

「俺の好きな人って言うかタイプはやっぱり初恋の子だな」

「あーよく私に悔し紛れに言ってた先輩の妄想の子ですか?」


 やっぱり、私だったんだ。

 今更後悔しても遅いことに悔やんでいるとゆっくんは得意げな顔で口角を上げ、鼻で笑った。


「はっ、妄想じゃないんだなぁこれが」

「・・・それって・・・どう言うー」


 もしかして・・・・私の事に気付いてくれたの!?


 私が言葉を言い終わる前にゆっくんは言葉を続けていた。


「俺のクラスに初恋のあの子と色々似ている子がいるからな!」

「は?」


 何言ってるの?

 そのゆっくんが言ってる初恋の女の子は私だよ?


「いやぁ、性格も良いし絵も上手いし・・・・可愛いし」

「もうぶっちゃけあの子が俺の初恋の相手なんじゃないかと思うわ」

「な、なに言って・・・・」


 ゆっくんの話す勢いは止まるどころか増していた。


「もういっその事今、”あの時の子”かどうか聞いてくるか!うん、そうしよう!」

「違っ・・・その人は・・・」


 違うよ!

 その・・・誰かわかんないけど、その人別人だよ!!


 私!!

 ゆっくんの初恋の相手は私なの!!


「そんじゃあなぁ~もうここには来るなよ」


 嫌だ・・・

 そんな勘違いでもし・・・・ゆっくんが他の女の子と・・・


「おい、何すんだ?離せよ」


 気付いた時には、私はゆっくんの腕を掴んでいた。

 私の手に続き口までもが勝手に動いていた。


「もし・・・・もしですよ・・・・」

「先輩が十年前に会った女の子が・・・・私だって言ったらどうしますか?」


 無意識に聞いてしまった事だったが、ちょうどいい・・・

 他の女に取られるくらいなら・・・もういっその事!


「は?」


 私の言葉を聞いたゆっくんは固まっていた。

 そして直ぐに口を開いた。


 呆れた顔で、ため息と共に・・・


「お前が、あの子?」

「馬鹿にしてんのか?」

「なっ!」


 その帰って来た言葉に、逆に私が固まるとゆっくんは言葉を続けた。


「あの初恋の子は、お前と違って可愛くて、優しくて、絵も上手で」

「あのサラッとした黒髪も綺麗で、メガネも似合ってて、たまに見せる笑顔になんど見惚れたか」


 ・・・・

 そ、そんなに思っててくれたんだ・・・・


 私はとんでもない不意打ちをくらい、胸が痛くなった。

 体の体温が急激に上昇しているのが分かる。


 当然、当の本人は自分の言いたい事を言えて大変満足な様子だった。


 でも・・・それなら尚更、ゆっくんが他の女と私を間違えている事が気に喰わない。

 確かに今の私は髪の毛も金髪で、コンタクトにしたけど・・・


 目の前の彼は・・・


「はぁ、風谷さんがあの子で付き合えたら最高なのにな・・・」


 などと、ついに他の女の名前と願望を口に出し始めた。


「んじゃ、俺はこれで~」


 私の手を振り払った彼は、そのまま帰って行った。


「そっか・・・ゆっくんも私の事、ずっと好きだったんだ・・・・」


 私は一人取り残された教室で呟いた。


「もういい・・・そんなに私って信じられないなら、嫌でも今の私を好きにさせてやる!」

「その風谷だか昔の私似なのか知らないけど・・・・私のゆっくんは絶対に渡さない!!」


 私は一人美術部の教室で決意した。


 これは私がゆっくんに振り向いて貰うまでのお話・・・・だと思う・・・

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