第4話 聖女をお姫様抱っこする

 チュンチュン、チチチチ……:朝になると鳴く小鳥。


 いつの間にか朝になっていた。


「あ……。涙鳥ナミダドリの鳴き声。こんな北の果ての山にもいるんだ……」


 すまん、俺は頭を下げて謝った。

 昨晩、マッサージで気分が高揚したあと、俺はサーラが聖女であることを忘れて……。


「わっ! あ、謝らないで!」


「べ、別に、無理矢理じゃなかったし……」


「そ、その……。私も、いつか、そういう関係になりたいって思っていたし……。気分が高まったのは私もだったし……。えっと……。最初は痛かったけど、好きって気持ちが体の奥から全身に広がって……。よかったよ……」


 ごにょごにょ言われたから、はっきりしないけど、聞き間違いじゃないよな?

 サーラは、その……喜んでくれたよな?


「あーっ! ごめんっ!」


「お、思いだしたら恥ずかしすぎて、私、絶対、顔真っ赤。ちょっとだけ、こっち見ないで……」


 俺も顔が真っ赤だろうから、背を向けあうのは都合がいい。


 カチャカチャ:俺が甲冑を装着する音


「あれ? 起きたばかりなのにもう出発するの?」


 カチャカチャ:俺が甲冑を装着する音


「……ん。そうだね。魔王がいなくなったことを教えて、国中の人たちに安心してもらいたいしね。……それに、私たちの食料もないし」


「で、でも、私、歩けないというか……」


 ガチャッ!:俺が驚いて身じろぎしたため、甲冑が大きく鳴った音


 なんだって?!

 怪我をしている素振りなんてまったく見せなかったのに。


「違う違う! 魔王との戦いで怪我したとか、そういうんじゃないから」


 なんだ。何を慌てている。

 それに、いったい何を言いにくそうにしているんだ。

 今更俺達の間に隠し事なんて、何もいらないのに。


「……なんでって……。君が昨晩……。というか朝まで張り切るからでしょ」


 え?


「勇者の体力が凄すぎなんだもん……」


 それって……。そ、そういうことか……!


 俺は「途中からはサーラの方から積極的に……」と控えめに抗議する。


「そ、それは……。私だって、ずっと好きだった人と一緒になれたんだもん……。少しくらいは大胆になっちゃうよ……」


 うっ。可愛すぎて直視できない。俺は視線を逸らした。


「とにかく足腰ガクガクで立てないの……」


 そうか。そういうことなら。


 ガチャガチャ:俺がサーラに近づく音


「え? な、なに? も、もしかして、甲冑を着たままするの?」


「ま、待って。近くに人はいないと思うけど、こんなに明るい所で……。せ、せめて、どこかで水浴びさせ――」


 ガチャガチャ、スッ:俺がサーラをお姫様抱っこする音


「きゃっ!」


「えっ。えっ。もしかして、これ、お姫様抱っこ?」


 驚かせてしまったようだ。すまないことをした。


「勘違いしたでしょ!」


 うっ。耳がキーンとした。


「な、なんでもない。何を勘違いしたかは、気にしないで」


「とにかく……。あの……降ろして」


「い、嫌じゃないけど……」


「……重くない?」


「……そ、それじゃ、甘えちゃおうかな……」


「ほ、本当に重くない? 君も疲れてるよね? 私、歩くよ?」


「い、いいの? ……うん」


「で、でも、君……。私の太ももやお尻を触るのが恥ずかしくて、変な持ち方してるでしょ?」


「あはは。本当に、顔真っ赤。手つきもぎこちないし」


「昨日はあんなに大胆だったのに、今日は凄い奥手なんだから……。順当に旅をしたら、今夜は嘆きの荒野で二人きりだよね。……今夜もいっぱいするんだから、今から緊張していたら身がもたないよ」


 ガチャガチャッ!:俺が慌てて甲冑が鳴った音


「わっ。揺らさないでよ。落ちるかと思った。動揺しすぎだよ。もー。私、聖女の力はもう使えないかもしれないんだよ。怪我しないように、大事に扱ってよね」


「ねえ、何を誤解したの? 今夜もするって言ったのは見張りだよ? 私が結界を張れなかったら、交代で見張りをするんだよ。だから、体力を温存しておかないといけないの」


「だから、無理しなくてもいいんだよ。私、自分で歩けるよ?」


 俺は本当に平気だから、サーラをお姫様抱っこで運び続ける。


「……は? グリフォンの死骸をギルドに持っていくより遥かに楽? 何と比較してくれちゃったのかなー?」


 うっ。どうやら俺は失言をしたらしく、サーラの声が低くなってしまった。

 そ、そうだ。だったら……。


「ふーん。セイレーンやマーメイドと同じくらいだから、軽い……と。ふーん。そういえば、旅の途中でいっぱい女の子を助けたよね。帰りに寄ってくの? 仲良くなった女の子達と会ってくの? また来てくださいって言われてたもんね。ふーん」


 うっ!

 俺が迂闊なことを口走ったせいで、聖女が闇落ちしている。

 ……闇落ちから救うには……。愛の力だ!

 好きだ!

 俺は腹の底から叫んだ。


「えっ?! えー。えへへ。急に好きって言われても……。もっと言ってくれないと機嫌、直らないよ? えへへ」


 既に上機嫌のようだが、俺は続ける。


「もー。照れてるでしょー。可愛いー。真っ赤なほっぺた、つんつん。えへへー」


「反撃できない勇者を一方的に攻撃できるの楽しー。つんつん、つんつん。勇者に1のダメージ。勇者に2のダメージ。テレレッテレー。聖女はレベルが1上がった。勇者への愛情が100上昇した。なんて……。てへへ……」


 ちゅっ:サーラが唇を鳴らした音


「サーラは勇者に投げキスをしかけた。……ミス。勇者は既に魅了されているから、効果はない」


「えへへ」


「両手がふさがってる勇者には反撃なんてできませーん」


 だったら。

 好きだ!

 世界の誰よりも愛してる!


「……ッ。し、知ってるから。勇者が私のこと好きだって知っているから、一回や二回、好きって言われただけじゃ照れないから」


 だったら、何度でも言ってやる!

 好きだ!

 サーラ!

 愛してる!

 大好きだ!


「ま、待って……。そ、そんなに何度も言われると……。だ、黙らせてあげる!」


 ガバッ:サーラが俺の首筋に抱きつく音


 ちゅっ:サーラが唇を重ねてくる音


「……私も、好き。大好き……」


「ずっと、ずっと一緒だよ……」


 ちゅっちゅっ:俺達が唇を重ねあう音

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魔王との戦いで傷つき倒れた勇者様を、幼馴染み聖女が癒やします。口づけ回復薬、人工呼吸。マッサージ後は一晩中盛り上がってしまい…… うーぱー @SuperUper

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