第2話 口移しで回復薬を飲ませてくれる
さらっさらっ(サーラが俺の頭をなでる音)
「ねー。勇者様、いつまで眠ってるのかなー……。私の膝枕が心地よくて、起きれなくなっちゃった?」
そ、そんなんじゃないから!
闇の波動の影響で体が動かないだけだから。
あと、魔封じの影響で喋れないけど意識はしっかりしているから!
「あれ?」
さわさわっ(サーラが俺の胸をなでる音)
「え? え? 待って。嘘でしょ! 心臓、止まってる?!」
え。普通に動いているよ。
ぱゆんっ:俺の顔が凄く柔らかいものに包まれる幸せな音
さっ(サーラが俺の胸に耳を当てる音)
「あ。あれ。聞こえない。私の耳が変になっちゃったのかな。胸に耳を当てても心臓の音が聞こえない」
「あ。左耳なら……」
ぱゆんっ:俺の顔が凄く柔らかいものに包まれる幸せな音
さっ(サーラが俺の胸に耳を当てる音)
「駄目。やっぱり勇者の心臓の音が聞こえない! やだ! そんなのやだ! ああっ……! どうしましょう! 勇者様の顔が真っ赤だわ! 心音を聞くときに私の胸が勇者様の鼻と口をふさいでしまったせいだわ」
だ、大丈夫だから、そんな悲鳴をあげないでくれ。
むしろ、俺の心臓は今、めちゃくちゃバックンバックン言ってると思う。
聞き直してくれ!
「慈愛の女神アペゼーよ、傷つき倒れた者に癒やしの奇跡を与えたまえ……! どうか、貴方の敬虔なる信徒サーラの願いを叶えたまえ……!」
ファアアアアアアッ:回復魔法の音
ああっ……。癒やされる……。
顔の熱が冷め、動悸もおさまってくる……。
「回復魔法は効いているはず。それなのに……」
ぱゆんっ:俺の顔が凄く柔らかいものに包まれる幸せな音
さっ(サーラが俺の胸に耳を当てる音)
「駄目。やっぱり心臓が動いていない」
だ、大丈夫だ。生きている。
癒やされたから心音も落ちついただけで、内心は破廉恥で邪な感情を抱いてしまったことに動揺している最中だ。
自分で言うのもあれだが、多分、鍛えた胸筋が分厚くて心音が聞こえづらいんだと思う。
くっ……。魔封じのせいで、まだ声が出せない。
「そ、そうだ。回復薬が一つ残ってる!」
ゴソゴソ:サーラが道具袋を漁る音。
「あった」
「ふ、蓋が……。落ち着いて。蓋を開けて薬を飲ませるだけだから……」
キュキュッ。ポンッ:ビンの蓋を開ける音
「飲んで」
俺の唇に何かが触れた。回復薬の瓶だろう。けど、体は麻痺しているから飲めない。
「そんなっ……! こぼれちゃう。……意識がないから飲めないんだ……!」
「そうだ。口移しで……」
え?
ガサガサ:サーラが膝枕をやめて、俺の胴体の横に移動する音。
こくっ:サーラが回復薬を口に含む
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
えええっ?!
ごくっ:俺が回復薬を飲んだ音
「……どう? 飲んだ? お願い……。起きて……。もう一口……」
こくっ:サーラが回復薬を口に含む
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ごくっ:俺が回復薬を飲んだ音
「飲んだ……よね? 大丈夫だよね……?」
の、飲んだ。
だ、大丈夫だけど、大丈夫じゃない!
い、医療行為だけど、唇が……。サーラとキスしてしまった……。
サーラ。俺の鼓動を聞いてくれ。破裂しそうなほど鳴っているから。
だ、だから、治療はもう大丈夫だ!
「そうだ! 港町マリーンで人魚族がおぼれた人間を助けていた時の方法がある!」
「たしか、胸に手を当てて……」
ぐっ! ぐっ! ぐっ!(心臓マッサージの音)
「んっ! んっ! んっ!」
「はあはあ……。心臓の位置をマッサージしたあとは……。キスして吐息を吹きこむんだよね……」
「わたし、清らかな乙女だし……。きっと女神アペゼー様が奇跡を起こしてくださるわ。だから……」
「んっ……」
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ふーっ!(サーラが俺の口に息を吹きこむ音)
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ふーっ!(サーラが俺の口に息を吹きこむ音)
「はあはあ…。んっ……」
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ふーっ!(サーラが俺の口に息を吹きこむ音)
「これを何度も繰り返すのよね。……お願い。生き返って。勇者……!」
生きてるけど、興奮しすぎて死にそう……!
ぐっ! ぐっ! ぐっ!(心臓マッサージの音)
「んっ! んっ! んっ!」
「はあはあは……。お願いだから……。息してよぉ……」
そんな悲しい声を出さないでくれ。
息してるから!
俺は大丈夫だから!
むしろ、何度も唇を重ねているせいで、頭が熱くなってきて、このままだと女神達が待っている天上の世界に旅立ってしまう。
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ふーっ!(サーラが俺の口に息を吹きこむ音)
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ふーっ!(サーラが俺の口に息を吹きこむ音)
ぐっ! ぐっ! ぐっ!(心臓マッサージの音)
「んっ! んっ! んっ!」
「んっ……」
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
ちゅっ……(サーラが俺の唇に、唇で触れる音)
「んっ! んっ! んっ!」
ぐっ! ぐっ! ぐっ!(心臓マッサージの音)
「あっ! 唇が動いた!」
ささっ(サーラが俺に覆いかぶさるようにして、口元に耳を近づける音)
「よかった……。息してる……。心臓は」
息しているというか、興奮して荒くなっているんだ。
唇が触れて興奮した破廉恥な俺を許してくれ。
さささっ。すっ(サーラが移動する音)
ぱゆんっ:俺の脇腹に凄く柔らかいものが触れる幸せな音
すっ(サーラが俺の胸に耳を当てる音)
バックン! バックン!:俺の心臓がはち切れそうだぜ
「動いてる。心臓の音が聞こえる……。ドクンドクン言ってる……。よかった。うぐっ……。よかったよぉ……。ううっ……」
「……あはっ。気が抜けちゃったのかな……。安心したら動けなくなっちゃった……。だから、胸、少し借りるね……」
い、いいけど、俺の心臓が破裂するぞ。
分かっているのか。お前の胸が俺の腹に乗ってるんだぞ……!
落ち着け……。勇者の死因が魔王との戦闘ではなく、聖女を胸に抱いたときの興奮だなんて、冗談にもならない。
サーラを悲しませるわけにはいかない。落ち着け、落ちつくんだ……。
さらっ:俺の頬を撫でる音
「温かい……」
「ねえ。覚えてる? 前も一回だけ、こうやって勇者の胸を借りたことあったよね……。旅に出てからしばらくは宿に泊まっていたけど、あるとき幻惑の森で迷っちゃって……」
「初めての野宿だったよね。あの時もこうやって、一緒に寝たよね……。あの時は甲冑が硬かったし冷たかったからすぐには眠れなかったけど、今は君の胸が温かいからすぐに眠っちゃいそう……」
俺は興奮しすぎて眠れそうにもないが!
「いけないいけない。寝ちゃ駄目だよね」
「……ねえ、知ってる? 魔王を倒したよね。私の聖女としての役目は終わりだから……もう、結婚できるんだよ?」
「……大人の関係になるのもあり……。えへへ……。お兄ちゃんは私のことをそういう目で見ていなかったかもしれないけどね……」
「私は孤児院にいた頃から、お兄ちゃんのことずっと……」
「……ふふ。ほら。早く起きないといたずらしちゃうぞー。髪の毛で耳、くすくすしちゃうぞー。あははっ」
サラサラ:髪の毛先で、右耳をくすぐられる音
「こっちも、くすくすーっ」
サラサラ:髪の毛先で、左耳をくすぐられる音
く、くすぐったい……。
ん?
だんだん、体の感覚が戻ってきたぞ。
どうやら、闇の波動の効果が切れてきたようだ。
「……ん? なんか顔、赤い? あれ。もしかして、意識、戻ってる?!」
俺はキスのことを思い出してしまい恥ずかしかったから、顔をそむけて「ああ」と短く返事をした。
「待って! なんで目をそらすの? ねえ、いつから?! もしかして、私が言ってたこと、聞こえてた?!」
光の勇者たる俺は嘘をつくわけにはいかないので「最初から」と答えた。緊張しすぎて舌は回ってなかったかもしれない。
「最初から?! 嘘ッ! 闇の波動の効果で、体が動かなかっただけで、意識はずっとあったの?! じゃあ、全部、聞いてたの?!」
「待って、待って、待って。私、とんでもないこと言ってなかった?! ねえ、嘘だよね? 本当は起きたばっかりだよね。私のこと、からかってるんだよね?」
あー。いや……。全部、聞こえてた。俺は顔面に、サーラの熱い吐息を感じながら正直に答える。
「……本当、なの?」
俺は「本当だ。……それと、俺もお前のこと、好きだ」と、冒険の間はけして口にできなかったことを、告白する。
「え?」
俺は顔が真っ赤になったサーラをまっすぐ見つめ、乱れた髪に手櫛を入れてあげ、そのまま抱き寄せる。
そして――平和になったんだ。……だから。昔の約束――。
「覚えてるよ! 二人の約束! 世界が平和になったら、結婚するって!」
ああ。サーラ。俺と結婚してくれ!
「うん! する!」
ありがとう。サーラ。好きだ。愛してる。
今まで言えなかったから、何度でも言うよ。
好きだ。愛してる。
「好き! 私も大好き! ずっと! 大好き!」
俺はサーラを強く、強く抱きしめた。
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