魔王との戦いで傷つき倒れた勇者様を、幼馴染み聖女が癒やします。口づけ回復薬、人工呼吸。マッサージ後は一晩中盛り上がってしまい……

うーぱー

第1話 聖女が俺の甲冑を脱がせてくれる

「勇者様! 勇者様! しっかりしてください!」


 覗き込むような位置から切迫した声が聞こえる。聖女のサーラだ。


「魔王は消滅しました。勇者様の決死の一撃、相打ちではありません。勇者様の勝利です。安心してください。すぐに回復の奇跡でお救いしてみせます」


 そ、そうか。魔王は倒せたか。

 体がしびれて動かないが、どうやら俺はまだ生きているらしい。

 だから、そんな悲痛な声を出さないでくれ。君が悲しんでいると、俺の胸まで苦しくなる。


「無理して起き上がろうとせずに、そのまま寝ていてください。あとはすべて私にお任せください」


「慈愛の女神アペゼーよ、傷つき倒れた者に癒やしの奇跡を与えたまえ……! どうか、貴方の敬虔なる信徒サーラの願いを叶えたまえ……!」


 ファアアアアアアッ:回復魔法の音


 ああっ……。体の右半身が温かい。

 痛みが消えていく……。


「はあはあ……。これで出血は止まったはず……。兜を外しますね」


 カチャカチャ……:兜を脱がす音


「すごい汗……。お拭きしますね」


 ススッ……:布で汗を拭き取る音


「すぐに甲冑も外して、楽にしてさしあげますからね」


 よかった。サーラはだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。

 聖堂の鐘のように響く、清らかで心地よい声音が戻ってきた……。


「でも、鎧は……。どうやって外すのかしら。ああっ。今までの冒険中に、たとえ断られてもお着替えをお手伝いするべきでした」


 サワサワ……:金属甲冑をなでる音


「たしか、脇のこのあたりを触っていたはず。この辺りかしら……」


 カリッ:サーラの指先が固い物に当たる音


「ありました。この留め具ですね。皮の紐が金属の固定具にひっかけてあるのね。これを……。んっ……。固い……。んっ……。んっ!」


 な、なんだか。エッチな声に聞こえる。

 くそっ。俺の馬鹿ッ。サーラは俺を癒やそうとしてくれているんだぞ。エッチなことを考えるな。


 ガチッ!:留め具が外れる音


「外れました。あとは反対側も」


 ごそごそ:サーラが反対側に移動する音


「反対側も同じ位置に留め具が……。ありました。これですね。んっ……。くっ……。固い……。んっ……。んっ」


 ガチッ!:留め具が外れる音


「外れました……。固定しているところはこれですべてかしら。それでは鎧の胸の部分、胸甲きょうこうを外させていただきますね。これを外せば、すぐに呼吸も楽になりますからね」


「重い……。んんっ……! はあはあ。んんっ……! ん~~っ!」


 ゴトンッ!:重い金属が地に落ちる音


 俺にとっては馴染んだ重さだが、サーラには随分と堪えたらしく、荒い吐息が聞こえてくる。


「はあはあ……。勇者様はいつもこんなにも重い鎧を身につけていらっしゃったのね……」


「汗を拭いて差し上げるために、この厚手のジャケットも脱がせたいのですが……」


「確か、これは腰の辺りまであるのですよね? ということは腰の甲冑を先に脱がせるのね?」


 ごそごそ:サーラが反対側に移動する音


「腰の甲冑はどうやって装着しているのかしら。胸と同じように、左右で留めているのかしら……。それとも、下着のように履いているのかしら」


「あ。ベルトで留めていらっしゃるのね。では、これを緩めて……。んっ……。くっ……。あんっ……。キツ、い……。んっ、ん~~っ!」


 ガチッ!:留め具が外れる音


「はあはあ……。取れた……。激しい戦闘でも外れないように、こんなにもキツくしてあるんですね」


 ごそごそ:サーラが俺の頭側に移動する音


「それでは、ジャケットを脱がせますね。んっ……。くっ……。はあはあ……。んんんっ」


 ズッ……:ジャケットの首部分を掴み、頭の方から引っ張って脱がそうとする音


 くっ。俺が上体を起こせればいいんだが、魔王から喰らった闇の波動の影響で、まだ体が動かない……。


「駄目です。勇者様の背中で引っかかってしまいます……。強く引けば、脱がせられるかしら。でしたら……」


 ごそごそ:サーラが頭側に移動する


「慈愛の女神アペゼーよ。はしたない格好をすることをお許しください……。そして、勇者様。まだ意識を取り戻したり、目を開けたりしないでくださいね」


 いや、瞼を閉じたまま動けなくなっているが、意識はあるんだ。


「まずは勇者様の腕を左右に広げて十字架のような姿勢にして……」


「ううっ。脚を出すのは恥ずかしいですけど、司祭服を膝の上までめくって……」


 ササ……:衣擦れの音


 おい。サーラ。いったい何をしているんだ!


「勇者様の胸にまたがって……。あとは頭上に座って……」


「あわわ。勇者様の頭を股で挟むような姿勢で恥ずかしすぎです……。で、ですが、この姿勢で足をふんばって引っ張れば、ジャケットがスポーンと脱げるはずです。スポーンです! いきます!」


「んん~っ! んっ! んっ! んん~っ! あんっ。勇者様の髪の毛がつんつんして太ももに……。駄目。そんなこと気にしてたら駄目。んん~っ!」


 ズズズズズッ:分厚いジャケットを頭の方から引っ張って脱がす音


 ズポンッ:ジャケットが脱げる音


 ドサッ:サーラが勢い余って倒れる音


「痛た……。勢い余って背中を打ってしまいました……。けど、はあはあ……。なんとか……。脱がせることができました。はあはあ……。甲冑の下にもこんなに重い物を着ているのに、風のように素早く動いていたなんて、本当に凄いですね……」


 サーラの荒い吐息が聞こえてくる。だいぶ疲れたようだ。


「あっ! 大変!」


「勇者様の頬が真っ赤に! ジャケットの裏地でこすってしまったのね」


 いや、確かに頬が少し擦れたようだが、痛みは大したことない。

 むしろ、聖女相手に破廉恥な感情を抱いてしまい、そのせいで赤面しているだけというか……。


「どうしましょう。魔王を倒したとはいえ、ここは魔族の勢力圏。まだ奇跡の力は必要になるかもしれないし……。でも、このままにしておくのもよくないし……」


「そうだ!」


 サラッ……:サーラの髪が俺の顔にかかる音。


「髪の毛が顔にかかってくすぐったいかもしれませんけど、我慢してくださいね……」


 吐息がすぐ近くから聞こえるし、なんだか俺の鼻や口に息が当たっていて温かい。

 い、いったい、何を。


 ぺロッ:サーラが勇者の頬を舐める音


「あはっ……。お兄ちゃんの頬、ちょっとしょっぱいよ。……覚えてる? 昔、私が猫に頬を引っかかれたとき、こうしてくれたよね。頬をぺろって……。今だけは、勇者と聖女じゃないから……。だから、お兄ちゃん、いいよね」


 ぺロッ:サーラが勇者の頬を舐める音


 く~っ。サーラ、懐かしい想い出だけど、それはまだ俺が剣を握る前だし、一緒に裸になって水浴びをしていたような子供のころだろ!

 今の君はもう素敵な女性だから、こ、こんなこと……!


 サラッ……:サーラの髪が俺の頬にかかる音。


 うっ。なんだ。頬に髪の毛がいっぱいかかるし、なんか、耳元に吐息がかかってる。


「かすり傷くらい、これで治るよね。お兄ちゃんがそう言ったんだからね?」


 言ったけど、言ったけど……!


「んっ、んっ(咳払い)。これくらいなら女神様も許してくれるよね。うん。妹は終了」


「勇者様。すぐに傷を癒やしてさしあげますからね」


 ごそごそ(サーラが俺の右側に移動する音)


「お体に触りますね」


 すっ(サーラが俺の胸を触る音)


 サーラの手が冷たくて気持ちいい……。

 けど、俺の汗で汚してしまって申し訳ない……。


「戦いの熱がまだこんなに……」


 すっ(サーラが俺の胸をなでる音)


「回復の奇跡で外傷は癒やせたけれど、骨や内臓の状態は……」


 すっ(サーラが俺の胸をなでる音)


「大丈夫そうね……」


 すっ(サーラが俺の胸をなでる音)


「大きな胸……。ほんの少し前まで私より小さかったのに、気づいたら私より背が大きくなってたし、あっという間に差が開いちゃったなあ……」


「ふふっ……。孤児院のやんちゃ君が、いじめられていた私だけじゃなく、世界まで救っちゃった。すごいね……。格好良かったよ。……君は世界を救うことばかり考えていたから気づいていないだろうけど……。私、ずっと君のことが好きだったんだよ……。君の意識が戻ったら……。好き……って言うね。だから……。聖女でも、妹でもない、私を見てね……」


 聞こえてる~~っ!

 いや、俺が言うから!

 君より先に俺が好きって言うから!

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