GOU

 俺達と出会う前のあんたは、どんな生き方をしていたのか。

 実の所、HEAVEN&EDENで組んでいた時から、気にはなっていた。

 誰しも、出会う以前の事など分からなくて当然なのだが……何故だか、あんたに対してはその疑問を殊更感じた。

 俺は、医者でも無ければ他の連中ほど、その手の勘は鋭く無い。

 話を聞くに、俺が行動を共にしていた時点ではまだ病状も進んで居なかったのだろう。

 それでも。

 恐らく、あんたの人柄を間近で見るうち、それまで孤独であったらしい事との齟齬を感じたんだ。

 俺の気のせい、と言う可能性の方が高かったし、KAIカイも「どこかの固定パーティで喧嘩別れをしたのだろう」と推測していた。

 ……あんたの、聖人君子じみた寛容さと、尚且つ他人の領分に踏み込み過ぎない絶妙なバランス感覚を思えば、それも想像しにくかったが。

 だが、俺達もついぞ、あんたの全てを知った訳では無いから、KAIカイの見立てが正しい可能性の方が高かった筈だが。

 

 こうして答えが出揃って、初めて思う。

 俺達と出会う以前の5年間、もしあんたが“大地の民”として、陽の当たらない世界で死を待っていたとするなら。

 それ迄のキャリアを捨ててあのゲームを旅立ち、HARUTOハルト達とVR世界を巡り……あんたは、最後には独りでは無かったのだろうか。

 それがあんたの時間を動かしたのだと……勝手ながら信じさせて欲しい。

 

 今にして思えば残念だな。

 あのゲームに於いて、あんたの育成ビルドもスキルも既に完成していたから、製造要員として俺の出る幕が殆ど無かった。

 あんたの武器やスキル、作って見たかった。

 また、会えるものと思っていたから。

 俺もHEAVEN&EDEN以降、あんた達について行けば良かったよ。

 

 俺は理神論者だが……それでも尚、あんたの魂が見守ってくれていると、信じさせてくれ。

 こんな仮想空間の世情でどう生きるか等、誰にも分からないだろうが。

 少なくとも、MALIAマリア、あんたに恥じない人生をと言う指標は出来た。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る