クトゥルフ体感ゲームThe Outer Godsからの参列者

JUN

 VRMMOの存在意義は、食糧問題の口減らしだけではない。

 終末期医療ターミナルケアにも使われるんだ。

 元医師だった僕が、真っ先に気付いても良さそうなものだった。

 事実、僕はMALIAマリアにこう訊いたことがある。

 

 ――キミみたいな現実でうまくやってけそうなのが、何でVRこっち側にいるの。

 

 僕の問いに、あの時の彼女はどんな顔をしてたっけな。

 あの時は、互いに軽くエールを引っかけてたからなぁ。

 VR世界に生きる人は、現実を諦めた負け組だけとは限らないってこと。

 あるいは僕は――その可能性に気付きながら、無意識にフタをしていたのかもね。

 彼女が喪われる可能性から、目を背けた。

 あるいは、医師として彼女に何もしてやれない無力感と向き合うことから逃げた。

 らしくない。

 医師の道からVRに逃げ込んで、真実から目を背けて守ったものが……医師としての自分だった。

 僕、本来、そんなキャラじゃなかったんだけど。

 世紀末ポストアポカリプスゲームでヤクをキメて暴れたり、仲間であろうと誰彼構わず見下すようなクズでさ。

 まあ……そんなヤツをボケ殺ししてしまう意味でもさ「リアルで死ぬ」ってのは、やっちゃあかんよ、やっぱり。

 

 VRMMOを終末期医療の手段として見た時。

 現実の肉体が立つのも困難な状態だったとしても、アバターを補強してやれば、地球規模の空間で自由に生きられる。

 その上、世界観ジャンルは選び放題ときた。

 SF世界でも、ファンタジー世界でも、思いのままだ。

 戦闘のあるジャンルなら、死ぬ予行演習だって好きなだけできるから、恐怖もやわらぐ。

 それともうひとつのメリット。

 VR世界では、人間の体感時間を倍以上に引き伸ばすこともできる。

 たとえば「時間の流れがシャバよりすげー遅い空間」ってのを設定してやれば、本人の体感寿命をそれだけ伸ばしてやれる。

 当然、長居しすぎるとヒデぇ時差ボケを招くんだけど……余命宣告を受けた人間には、あまり関係ないよね。

 彼女が最後にプレイした“クレプスクルム・モナルカ”にも、そういうエリアがあったらしいんだけど。

 結果、彼女は“そこ”に留まらなかったという。

 自分の余命を等倍速で受け入れて、HARUTOハルトたちと戦い抜くことを選んだ。

 太く短く、ってのが決して大正義とは言わないが……僕には眩しすぎたよ、君の生きざま。

 

 VR世界って、特に故人とのお別れがしにくい。

 現実の身体が死んだことを、確認できないからね。

 だから、遺された人たちが故人に縛られやすい。

 そうならないためにも、今回、HARUTOハルトがセッティングしてくれたような、VR仲間の告別式ってのは、割りと珍しくはないんだよ。

 とはいえ、それを差し引いてもだよ。

 相変わらず、顔が広いと思ったよ。

 JOUジョウさんだっけ?

 キミら、マジモンのお坊さんとも冒険してきたんだね。

 身体に香を塗って、念仏を唱え始めたよ。

 当たり前だけど、すげー本格的。

 まあ、MALIAマリアよ。

 これがVR葬儀で命拾いしたね。

 彼の宗派では、本来ならキミは髪を剃られてハゲにされてたんだよ。

 

 で、そんな厳かな雰囲気のなか、悪いけどさ。

 今からエールで一杯、やってもいいかい?

 どうせキミ、気にしないでしょ。

 てか、何なら推奨すらしかねないよね。

 自分の葬式ですら、僕らに笑っててほしいって……ほしいって――。

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