第4話 Take Me Out/私を連れ出して その2
「これで開いたわ」
護送車の扉に手をかざし電子ロックを解除したジェスが言葉を放った。
しかしフランツはすぐには扉を開けなかった。
「開けたら優れ飛び降りて逃げるつもりだったんだが、一応確認しておこう。この車に他に護衛についてるのはあるのか?」
「確か、前と後ろに1台ずつ、アンディーの運転する護衛の車両があったはず」
それを聞いたフランツは扉の方を向き、手を置いた。
「よし、いいか、今から後ろの護衛の車に二人で飛び乗る。飛び乗ったらすぐ、運転席と助手席のアンディーにEMPを流して回路を焼き切ってくれ。それから俺が車を運転して逃げる」
それを聞いたジェスはフランツに疑問を投げかけた。
「あなた、運転はできるの?」
「いや、したことはない」
即答だった。
ジェスはため息をつき、呆れたような顔をした。それでもこれしか考えられるような手はなかった。
それにフランツ、彼はなぜこんな状況でも余裕そうにしていられるのかジェスは疑問だった。
護送車で運ばれているときから、これから何が自らの身に起こるのか、察しはついていたはずだ。
なぜここまで冷静なのか、ジェスには理解できなかった。
「あなたはなぜそんなに冷静でいられるの?」
その質問に、フランツは顔色一つ変えずに言葉を返した。
「さあな。つい数時間前までは俺もこうじゃなかった。これも、フェイズシフトのせいかも」
ジェスは黙った。
フランツは構わず続ける。
「俺の合図で車に飛び乗る。そしたらすぐにアンディーにEMPを流せ。3、2、1」
「ちょっと...」
ジェスがそう言い終わる前に、フランツは右腕でジェスを抱え、扉を勢いよく蹴った。
扉の向こうには幹線道路と、幾つもの車、対向車線に、ガードレールや中央に何本も設置された電灯が目に入った。
目の前にはアトラスの黒塗りの護衛の車両が見え、運転席と助手席にフランツが港地区の路地で戦ったのと同じ女型のアンドロイド兵士がいた。
すかさず床を蹴ってフランツとジェスは勢いよく護送車を飛び出し、爽やかな風を体中に受けて護衛車両のボンネットへ着地した。
着地の衝撃でボンネットがへこむ。
フランツはジェスを離して大声を上げた。
「ジェス!EMPだ!」
そう言い放ち、亜空間へと消えた。
二人のアンドロイド兵は拳銃を取り出し、それぞれフロントガラス越しにジェスへ銃口を向けている。
急いで両手を突き出し、何千回目かの電磁波を出した。
アトラスの兵士相手のEMPを使用したのはこれが始めてだった。
電磁波を受けたアンドロイドたちはボンッという音を出して動かなくなった。
次の瞬間、助手席のアンドロイドの遺体が弾け飛び、中からケイ素、シリコンとも呼ばれる素材でできた人工の皮膚を突き破って真っ白い人工血液と内蔵まみれのフランツが出てきた。
フランツはそのままハンドルを握り、運転席の遺体を勢いよく蹴飛ばしてドアを開け、それと同時に遺体は道路へ転がりながら落ちていった。
フランツが運転席に移ってすぐに、ジェスがボンネットから恐る恐る助手席へ乗った。
「クソっ、やらかした。なあジェス、人工血液まみれで前が見えないから、窓から顔を出して指示を出してくれないか?」
人工血液と内蔵にまみれたのはフランツだけでなく、フロントガラスやシートなども真っ白に染まっていた。
「アンディーを内部から破壊するから、こうなるのよ」
「過ぎたことはいいだろ。さあ早く」
そう急かされてジェスは窓から顔を出した。
フランツはハンドルを切り、方向転換して対向車を避けながら幹線道路を逆走し始めた。
しばらくの間車内にはジェスの案内の声だけが響いた。
アトラスが追ってくる気配はなかった。
一時間ほど進むと、幹線道路を降り、人工血液も薄くなってジェスの指示も必要が無くなった。
車内の沈黙をフランツが破った。
「なあ、ジェス。覚悟を決めろよ」
突然のことでジェスはよくわからなかった。
「突然何を言い出すの?」
「そのまんま。覚悟だよ。俺はもうケチな空き巣や、こそ泥なんかじゃ無いし、君は連中のところで不自由ながらも保護されてた生活とはもう違う。これからは、俺たちだけで連中と戦い、俺たちだけで生きてかなきゃならないんだ」
少し黙ってから、ジェスは返事をした。
「分かったわ」
単純で、それでも強い気持ちのこもった返事だった。
違法インプラントを移植した青年と、元実験体の少女の逃亡劇が始まった。
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