第3話

「牽ちゃん、思い出してくれたね」


 ふふふと琴子が微笑んだ途端、部屋の中が暗闇に包まれ、星々が瞬き出す。健と琴子が立っているのは、天の川に掛けられたカササギの橋。


「あ……織ちゃん……」


 健の中に牽牛の記憶が蘇る。


「そっか。俺、どうしても地上で人間として生きてみたいってお願いして、人間として生まれたんだったね」


 呟いた健は、いつのまにか牽牛の姿に。正面に立つ琴子は、織姫の姿に。


「うん。私、大反対したのに」

「だけど、最後は分かってくれた」

「だって、絶対に私と結ばれるようにお願いするって、約束してくれたから。……人間に生まれたら、記憶は無くなっちゃうのに」

「ははは……そうなんだよね。今の今まで俺、織ちゃんのこと忘れてたもんな」

「でも、私のこと好きになってくれた。10年前には、私たちがちゃんと会えるようにって願ってくれた。……私の名前、乙ちゃんと間違えてたけど」

「10年前、俺の前に現れたのは、やっぱり織ちゃんだったんだね」

「うん。でもまだ牽ちゃん子供だったし。私もまだ地上に降りるお許しを貰えてなかったから」

「お許し、貰えたんだね」

「うん……これからはずっと一緒だよ、牽ちゃん」


 牽牛はそっと織姫を抱きしめた。織姫は牽牛に身を預け、幸せそうな顔で目を閉じた。

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