第7話 燻る………

「ふい~。」

 俺は伸びをしながらため息をつく。授業での実習で、かねり白熱した試合をしてしまった。だが……

「お前は構ってほしいのか?」

 そう言って一枚のカードを見る。それは俺のパートナーのシャイガールだ。いまでは白いもやから、なんとなく人の形が判別できるくらいまで見えるようになった。検証して分かったが、どうやらバトルで使用すると徐々に見えるようになって、一度もバトルで使わないと拗ねたように消えてしまう。

 だから今では、なるべくシャイガールを使うようにプレイングしている。



「皆さん、明日はいよいよ学年別トーナメント戦が始まります。準備はいいですか?」

 羽澄先生が笑顔で伝えてくれた。

 音練中学校一学期最大のイベントが始まるらしい。俺にとってはピンと来ないが、周りのやつらの雰囲気を見るに、相当大きい規模のようだ。

「今年もみんなのバトルを見に、プロのスカウトが来てくれることになっていますから、張り切って頑張りましょー!」

 おー!という声が教室に響く。

 そりゃ盛り上がるわけだ。

「それになんと!今回はあの、久我醒さんが来てくれるそうです。みなさんアピールのチャンスですよ!」

 久我醒勝己。この世界で若くして最も強いと謳われるプレイヤーであり、少し前に自分の後継者を探すという発言をしたことで注目を集めている人だ。

「マジかよ!?」

「もしかして、俺が後継者に!?」

「あんたがなれるわけ無いでしょ!」

 クラスの皆が興奮したり、軽口を言って笑っているが、目はマジだ。全員自分が勝つと信じて疑わない顔をしている。

 俺は久我醒って人苦手かな。テレビで見てみたけど、上から目線でなんか癪に障るんだよなぁ。

 俺はクラスメートがはしゃぐ中、一人で家に帰った。







 ………うん、完璧だ。

 ん?デッキ調整に時間かけすぎだって?いやいや、明日のトーナメントはワンチャンプロになれるかもしれないんだぞ?そりゃ張り切るさ。

 久我醒って人が苦手とは言ったが、誰もプロになりたくないなんて、言ってないぞ?

 それじゃ、おやすみ~














「それでは、これより音練中学校の一学期、学年別トーナメント戦を開始します。」

 校長や偉い人達の長い話が終わり、俺達はあくびを噛み殺して真剣な顔に戻る。

 このイベントは五日間も続くらしい。それと、優勝者には久我醒プロと戦えるとかなんとか。

 ま、そんなことより目の前の試合だわな。俺にとって幸いだったのは、龍ヶ崎も土宇陀も神里も鉄峰もかなり離れていることだな。

 



 一試合目の対戦相手は……四組の、えー読めない。漢字って難しい………






 一試合目は問題なく勝つことが出来た。シャイガールも使えたし、文句の無い勝利だ。前に戦った不良が使っていたツタ怪人が出てきた時はヒヤッとしたが、自衛反転を持っていたお陰で余裕とも言えた。

 自衛反転を使用した時の相手の表情が今でも笑いそうになるほど最高だった。………いかんいかん、最低な奴だなこのままじゃ。




 緊張していたことも相まってトイレに行こうと歩いていると、廊下の先で話し声が聞こえる。羽澄先生と………誰だ?聞いたこと無いようなどっかで聞いたことあるような声だな。どこから回り込むか………

「なぜ私のもとに来ないんだい?」

 立ち聞きは良くないと離れようとすると興味深い言葉が聞こえてきた。

 ……あぁ!膀胱が破裂シソォー、ここで休むカー。

 俺は廊下の角に座り込んで、耳だけを先に向ける。


「久我醒さん。もうこんなことはよしてください。」

 羽澄先生が困ったように呟く。

「なぜだ?私のもとに来れば全てが手に入るぞ?」

「昔から言ってますよね?私はそんなことに興味はありません。他を当たって下さい。」

「わざわざ来た昔馴染みにこの仕打ちか………」

「もしかして、今日ここに来たのはこれのためだったんですか!?」

「違う、本当に後継者を探すために来たんだ。これはたまたま君を見つけたからだ。」

「なら、もう私に話しかけないで下さい。その必要ないですし、ハッキリ言って迷惑です。」

「な!?」

「それでは失礼します。久我醒プロ。」

 スタスタと羽澄先生が会場の方に戻っていった。

「……そうか、なら仕方ない。」

 久我醒さんは悲しそうな、それでいて無機質な声でポツリと呟いた。


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バトル描写なくてごめんね。      by作者

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