第9話 美しき世界
喰らっても喰らっても満たされたない。
喰らえば喰らうほど腹が減っていく。
一度味わってしまえばもう戻れない。
何を食べても満足できず、舌はあの濃厚な血の味を求め、腹がグルグルと凶暴な唸り声をあげる。
足りない。
まだ、足りない。
もっと喰らいたい。もっと殺したい。もっと汚したい…………。無垢なものを。清きものを。神聖なものを。幼きものを。気高きものを。崇拝すべきものを……。
……あの尊き存在、”柳隆一”を喰らいたいのだ。
あぁ、彼はきっと俺のメッセージに気が付いてくれる。
アナタの事が好きだと。
ずっとアナタを見ていたのだと。
そして……。
アナタのハラワタを喰らいたいのだと。
少女のハラワタは新鮮で、美味かった。
男のハラワタは芳醇な香りがして味わい深かった。
あぁ、彼のハラワタはどんな味がするだろう?
無垢な彼を、清き彼を、神聖な彼を、幼き彼を、気高き彼を、崇拝すべき尊き存在である彼を……。
早く……汚したい。
今日もくたびれたスーツを着て雑多な街を歩く。
せわしなく歩き回る人々。自分の近くに人食いがいるなんて微塵も考えてはいないのだろう。
疲れた顔で移動するサラリーマン。ケタケタとやかましい笑い声をあげる女子高生。路上でギターをかき鳴らす若者。
空を見上げる。
澄んだ青空が広がっている。ギラギラと輝く太陽。生ぬるい風が通り抜ける。少し元気のなくなってきた蝉の鳴き声がかすかに聞こえてきた。
あぁ、なんて世界は美しい。
柳探偵事務所の事件簿~ハラワタヲ喰ラウモノ~ 武田コウ @ruku13
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