6月の舞台裏(その2)

四、夜と朝の境目描く流れ星


褒められたことではないのですが、深夜まで仕事をすることが時々あります。夏は夜明が早いので、ベッドに入る頃には窓の外が白んでいることも。


夕陽が西の空を照らしながらゆっくりと色を濃くしていき、空も徐々に暗くなっていくように、朝が来るというのも瞬間的なものではなくて、朝も徐々に徐々に明けていくものだとは分かっているのですが、朝と昼あるいは昼と夜の境目よりも、夜と朝の境目が、よりくっきりと印象付けられるような気がして詠んだ句です。


結句 の「流れ星」は、主に音数から選んだ言葉ですが、明け方の流れ星というイメージ先行型になってしまったのが反省点。

要推敲かなぁと感じています。



五、幼子が鶏冠とさかをまねる立葵たちあおい


初夏を彩るタチアオイ。花びらをむしり取ると、その付け根の部分がねばねばしているので皮膚にうまくくっつきます。

特に赤い花びらをおでこや鼻の頭に付けると鶏のとさかのようになるので、私が生まれ育った地域ではタチアオイのことを「コケコッコ花」と呼んでいました。


おでこや鼻だけではなく顔中花びらだらけにしてふざけている男の子の、いかにもいたずらっこっぽい笑顔が記憶によく残っています。



六、アスファルト散りてこそ咲け夏椿


沙羅双樹の花が見頃だというニュース映像を見て「あれ?」と思いました。

映像に映っている花は、私の知っている夏椿の花だったからです。

夏椿って、別名が沙羅双樹っていうの? 沙羅双樹といったらインドのお釈迦様が入滅した時に咲いていたっていう花じゃなかったかしら?


と、浮かんだ疑問を調べてみたら、インド原産の本来の沙羅双樹は気候が合わず日本では育たないため、日本の寺院ではその沙羅双樹のかわりとして夏椿を植えているのだそうです。 歳時記によると、沙羅双樹は夏椿の別名として、夏の季語とされていますね。


映像では、真っ白な夏椿が雨に濡れて色を濃くしたアスファルトに落ち、鮮やかなコントラストを描いていました。


夏椿も寒椿とおなじように、花ごと落ちるので、正しくは「散る」ではないのですが、「散る」と「咲く」のコントラストを意識して「散る」としました。


……が、「アスファルト落ちてこそ咲け夏椿」 の方が、より情景に合ってるかも?

どなたか、ご意見いただければ嬉しく思います。



七、鞠ひとつ雨ざらしなり合歓ねむの花


団地の敷地にある公園。そこの東屋の近くで、誰かが忘れていったであろうボールがひとつ雨に濡れていました。


あとから持ち主が取りにくるものなのか、もう誰のものか分からなくなってしまったものなのかは分かりませんが、晴れていればそこに聞こえてくるはずのこどもたちの歓声が雨音にかき消されてしまった寂しさのようなものを感じました。


東屋のかたわら、ボールを見守るように咲いていた合歓の花が印象的でした。



八、朝焼けに急かされ名残りの夏至の月


「夏至」という兼題で、俳句てふてふのオンライン句会に投句したものです。

短夜の季節は、月が輝いていられる時間も短く、まだ中天にありながらあっという間に朝の空に飲み込まれ、その光を失ってしまうかのように見えます。


なおうらめしき朝ぼらけ、といったところでしょうか。


これからの季節は熱帯夜が続き、月を見上げて風情を感じる余裕もなく、クーラーの効いた部屋の中に閉じこもることになりそうですが、そういう時期を経て、涼しさが感じられる頃にまたふと見上げた月のさやけさを、今から楽しみにしています。



以上、2024年6月の自作句の振り返りでした。

ご感想などいただけましたら大変励みになります。

よろしくお願いいたします。


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