6月の舞台裏(その1)
一、
桜桃忌(6月19日)は太宰治の命日です。
その桜桃忌の夜、空に浮かぶ月を見ながら、彼が愛した岩木山の上にも月がかかっているかな、と遠い彼の地に思いを馳せて詠みました。
太宰治は青森県金木町の出身ですが、「金木から見える岩木山も悪くないが、弘前から見える岩木山がどっしりとしていて良い」というようなことを書き記しています。
太宰治は「恥の多い人生を……」から始まる『人間失格』が有名で、何度も心中未遂を繰り返し、最終的には心中でこの世を去ったということからも、退廃や厭世観で語られる作家ではありますが、人に愛されたくて、人を愛したかった作家なのではないかと、私は感じています。
今宵の月もまた、太宰がかつて見上げた月でもあるのです。
二、幼鳥の声もたわわに枇杷の枝
ガード下の薄暗い公園の隅っこに立派な枇杷の木が植えられていました。
枝がしなるほどたわわに実った果実に、ムクドリがたくさん集まり、その声のかしましいことといったら!
どこか、飛び方がおぼつかない子もいて、きっとこの春に生まれ巣立ったばかりの幼鳥なのでしょう。初めて食べる枇杷の甘さの感想をたずねてみたくなるような景色でした。
当初、「ムクドリの声もたわわに枇杷の枝」としたのですが、調べたところ、ムクドリは冬の季語ということが分かりました。枇杷 (実)の夏の季語と矛盾してしまうし、そもそも夏の情景を詠むのに冬の季語を入れ込むわけにもいきません。
そこで推敲し、「幼鳥の…」とすることで落ち着きました。
三、頬杖に奥歯の疼く梅雨の入り
実は今、歯医者に通っているのですが、次の予約までまだ間があるというのに治療中の奥歯がジクジクいやな感じになってきました。痛いというほどではないけれども、歯の根っこというか、顎の骨というか、そのあたりが疼くような不快感。
折しも、日本各地、相次いで梅雨入りのニュース。
ジクジク疼く奥歯と、じめっとした梅雨入りの曇り空がシンクロしているみたいだなと思って詠んだ句です。
酷暑は勘弁してほしいけれども、じめじめと雨が続くのも困りますね。
(四以降は「その2」に続きます)
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