第六章 ブラジャーフッド 1 ~ブラジャーがつないだ生と死~
「じゃあ、おれ行くわ」
「んー、さいなら」
「なあ、おれのパンツ知らない? 見当たらないんだけど」
「……どっかに落ちてるわよ」
「いやあ、ねーんだよ」
康介は這いつくばってベッドの下を覗きこんだ。綿埃とポテチの空き袋が密に同居している。
「おまえさあ」
「なによ」
「……なんでもない」
昨夜クラブで知り合った行きずりの女に説教なんてするもんじゃない。うざがられるだけだ。
ベッドの端にパンティが引っかかっていた。代わりにパクっていくかと穿いてみたら肌に食い込む。前部分は横からはみ出す。
女のパンティって奴は布の量が少なすぎる。
ブラジャーはどこに投げたっけ。こっち向きで後ろにぽいっと。
あったあった。椅子の背にもたれていたそれを取って胸に当ててみる。
ちょっとした好奇心だ。もとよりそんな趣味も性癖もない。
姿見の中には一匹の変態がいた。
女性用下着を身につけているから変態と言ってるんじゃない。女が見たら「変態!」と叫んで激怒するだろうなと考えてわくわくするから変態なんだ。
だが女はおれの挙動など知らん顔ですこやかないびきまでかきはじめた。
そのままデニムを履き、シャツを身につけた。
「じゃあ、また会うことがあったら、やろうぜ」
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