序章 家 5
翌日、お祓い師がやってくることになった。
インターフォンに対応したのは穂乃果、ついで幸太郎。
野良猫が我が物顔で寝ている縁側の端っこに座って、わたしは温かい陽射しと濃いめにいれた茶を飲んでくつろいでいた。
「ええ~、期待してたのと違うんですけど……?」
幸太郎が落胆の声をあげている。
「まあ、いいじゃないの。とりあえず中を見てもらいましょうよ」
穂乃果の取りなす声が聞こえてくる。理由はすぐにわかった。
兄妹の後ろに少女がいた。中学生かせいぜいが高校一年生といった幼さだ。
「なあ、白い髭のおじいさんは来ないの?」
「あの広告の人はわたしの弟子。除霊にはまだ力不足なんです」
「あんた、ほんとにプロなの?」
どう見てもプロの除霊師には見えない。どこにでも居る普通の女の子だ。
「詐欺じゃねえか」
幸太郎は不満を募らせている。だがものは考えようだ。
やくざまがいの強面ではなかったことで穂乃果はむしろ安心している。その証拠に動画撮影をすっかり忘れていた。
少女は居間を見渡し風呂場やトイレをのぞき、縁側のわたしと視線を合わせると、人なつっこい笑みを浮かべた。愛想のいい子だ。
「全部の部屋を見てきていいですか?」
「好きにしてもらってかまわない。ちゃんとお祓いしてくれるならね」
仏間を見たあと二階にあがっていく少女を見送った幸太郎は、穂乃果にあごで合図をした。
「まいったなあ、小遣いやって帰らせるか」
「アルバイトかなにかかしらね?」
二人はそのまま仏間に入って、小声で何か話している。耳をそばだてると会話が聞こえてきた。
「この家、売ってもたいしたことないみたいよ」
「……いくらだった? え、……それだけなんだ、そっかあ」
「うわものを解体して更地にするにも費用がかかるし、ダメね」
「イギリスだと幽霊屋敷はかえって高くなるのになあ」
無性に腹が立った。穂乃果の考えた打つ手とはこれか。
わたしに内緒でとんでもない計画を進めるものだ。内心で舌打ちした。
安すぎてすいませんでしたね。お手数お掛けして申し訳ありません。
せめてわたしが死んだあとにやっておくれ。
仏間に怒鳴り込もうかと思ったら、目の前をルンバが通りすぎた。この掃除機がけなげに働いていることを幸太郎たちは気にしていない。ルンバに同情したくなってきた。
やがて二階から少女が降りてきた。また目が合ったので、今度はこちらからにこりと微笑んだ。少女は頭を下げて丁寧なお辞儀を返してきた。
「不作法な孫がご足労をお掛けしてすみませんね」
「いえ、これが仕事ですから。それに見た目で損をするのは慣れてますからまったく気にしていません」
会話が聞こえたのか、仏間から兄妹が顔を出した。
「あ、どうでした。なんかいました?」
「座敷童子いそうですか?」
「すみずみまで拝見させていただきましたが、いませんね」
少女はきっぱりと言い切った。
「え、ウソでしょ。じゃ、やっぱり幽霊がいるのね」
穂乃果が顔をくもらせる。
「いえ、幽霊もいませんよ」
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