8歩目
「うん、ごめん。そうじゃなくて、シチュエーションを楽しむ感じではなくて、ふとした時に女の子扱いされるのが良いの。」
との事。どういうことだ。
手詰まりだ。俺ができることはほとんど無くなったと言ってもいい。だってよくわかんない。
「なりたいというより、そうありたいって感じなのかな?ごめん。めんどくさいよね。分かりやすく前例をあげるとするなら、PvPのデュエルの際みたいに、庇われる行為だったり、こうして、この五月雨街で可愛い服を着て、傘を被る状況が好き。」
と、おずおずと今着てる服を見せるように広げる。広げる際に手は萌え袖を掴むようにして見せていた。俺はジッと生脚を拝む。
「サンタクロースになりたいんじゃなくて、プレゼントを渡すならガチで選びたいって感じかな。ハロウィンの仮装で外を出歩くなら中途半端だったらやりたくないっていう感じ。」
なんか分かってきた気がする。
「……アニメで見るような女子同士の距離感みたいなのに憧れとかがあるけど、そういうのではなくて求めるのはどこまで自然体になれるか……なんて言ったらいいんだろう?」
要するにプロ意識が高いのでは無いのだろうか。完璧意識が高いとも言う。その点この世界において、アバター自体が女性である点、美意識についてはある程度抑えられているのだろう。
「だからというのもなんだけど、今はどうしようかなってなっちゃってはいるんだけどね。手探り状態?」
チュ〜っとスムージーを飲んでいる。程よい冷たさは頭をキンキンに冷やしてくれるのだろう。先程までの狼狽えはどこかへ行ってしまったみたいだ。
性別が変更できないはずの世界で、自分が面白いことになってるけど、それを上手く活かせてなくて困ってる、という訳では無いようだ。
それならこののほほんとした朴念仁に女の子として扱われるのもガチ目にしたらどうなるのだろうか。
ただ現実の不満を言いたかっただけのようならそれでいい。俺がトンチンカンなことを言って恥ずかしく身悶えするならそれでいい。
だがどうだろう。女の子の自覚が足りないのではなかろうか。まだ自意識が芽生えていない状態で女の子扱いを沢山する。そのうち気づいた時にはもう遅い。この方が萌える気がする。
「なんかありがとね。会計しよっか。そしたら今度はカイトのクエストクリアしよっ。」
励まされた気がした。ただ先程より心なしか元気になったように見える。そう思いたい。
それから店を出て通りを歩く。
六月街に行くには通りから路面電車を使うか転送門でスイスイと行ってしまうか、ゆっくり歩いて行くという3種の移動方法がある。
けれど俺たちは歩いて次の街に行くことにした。急ぐ旅でもないし、忘れてはいけないのが俺は人探しのクエストを受けている。ということで歩きながら探そうかということにした。
今の決定権は俺にある。
という訳で道に迷った振りをして目的の場所についた。
スタジオだ。
街のそれぞれにはフォトブースなるものが存在する。そして、衣装を試着してその雰囲気にマッチした写真を撮ることが出来る。
ゲーム内なので無人販売みたいに誰かいる訳では無い。それにお金をかける必要もなくスクショ撮り放題である。たぶんSS勢が泣いて喜ぶ仕様だ。当然好きなポーズを撮っている時に他の人が入ってくる、なんて言う困ったことは起こらず、人を選別して一時的に異なる空間を作って貸切状態にしてくれる。
今回は雨降る街の教会をセッティングした。フォト機能により、部屋の外の明るさも一時的に変更できるようになっているので、朝焼け色にも朝顔色の夜景にも対応可能であるのだ。
この街は黒い町である。否応なしに白が映える。白と言えば純白のドレスとかどうだろうと連想した結果、アヤメにウェディングドレスを着せたらどうなるのだろうと考えた。
「ここ入ってみようか?」
俺は全てを知った上でそこに入った。
計画は破綻した。
異なる空間として人を選別するのだから、お互いパーティを組んでいるわけでもなかったので、俺とアヤメそれぞれに別の空間が割り当てられてしまった。
今頃アヤメはチュートリアルを眺めてこれはなんだろうかと思いを馳せているに違いない。dizcordを開くことにした。
25XX/3/13/12:24
カイト:フォト機能、なんだったら色々試着もできるみたいだから、時間かけて試してみるといいんじゃない?
カイト:ちなみに街によってウェディングドレスのデザインとか変わるらしいよ。試してみたら?
25XX/3/13/12:25
カイト:ちょっとその間にお昼休憩してくるから。満足したら連絡くださいな。
時間的にもちょうど良い頃であった。ゲームの中で甘味を食べたが、現実でも食べないといけないのはなかなか面倒だなとも思う。
……静謐の文字が似合いそうな礼拝堂の中を少しだけスクショした。光が差し込んでいるのが中々絵になると思ってしまったのだ。
25XX/3/13/12:27
カイト:【写真添付】
25XX/3/13/12:28
アヤメ:……ちょっと手慣れてない?
25XX/3/13/12:28
カイト:それほどでもある。まぁゆっくりしていき。
ログアウトすることにする。
それからご飯を食べて、ゆっくりアイスコーヒーを飲んだのだが、すっかり飲みきって氷も溶け切る頃。
25XX/3/13/13:48
アヤメ:ごめんばくそくでごはんたべてもどるね
どんな写真撮ってたんですかね。
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