2歩目
釣りを終えて、2人で歩いている。
アヤメの不機嫌さはもうどこかに行ってしまった。桜色の瞳を輝かせて、あっちこっち見回している。
カイト、カイトって何の気兼ね無く高い声が響いている。そんなに何度も呼ばなくたって聞こえておりますよ。
片手に串焼き、片手に美少女。我が人類史に偉大な1歩が刻まれたように感じる。それにしてもこの串焼き美味いな。
噛んだ時の弾力と効いた塩味が旨味をひきたてる。ちょっと現実でも食べたくなる味。味覚についてこれだけ再現されているのだから、タイアップ商品が豊富にあるのもうなずける。
でもこのまま屋台巡っちゃうと手持ちが少なくなってしまう。その前にファンタジーらしく鍛冶屋で武器を仕入れることにした。
「らっしゃい。まぁ見ていきな。持ってもいいがあまり落とさないでくれよ?」
低い声でドワーフのような背の小さい男が言う。実年齢はどのくらいなんだろう。
「わしは売りもんじゃないぞ?」
わかってる。聞きたいことはどれがいい武器なのか、その見極めが分からないことだ。ただ重すぎて自分で扱えないなんてのは無様を晒すだけなのは分かる。バスターソードなんて誰が使うんだ。重すぎて持ち上がらない。
「カイト、これ似合うかな?」
使えるかどうかではなく似合うかどうかですか。まぁいいんでない?持っているのは弓のように見えるけど。矢はどうするつもりなのかね。初心者の矢は無制限らしい。なにそれ。
それはそれとして自分はショートソードにしようか。ロングソードはなんか合わない気がした。ファンタジーなら念力使って神秘剣士なんてのもいいかもしれない。どう使うのかは分からないけど。
まぁどの武器買っても100zなのでお試しで沢山買う人はいるらしい。全部使いこなしてバトルマスター!なんちって。
初心者向けのフィールドへ出る。
「これでカイトが近づいて来る前に殲滅してやる。」
ふんすっという息が聞こえてきそうなほど張り切っている。できれば狙いは別物にしてくれませんかね。
初心者向けの最初の敵はレディバグ。でかいナナホシテントウだ。外見はメカメカしくデフォルメされていて虫の忌避感をかなり減らしてくれている。
ショートソードを振りかざすが、構えがあっているか分からない。むしろ構えない方が様になっている気がする。
ぶつけると妙な軽さのある弾力が剣から伝わってくる。思わず握っていた手を離してしまいそうだ。剣は苦手なのかもしれない。
消えていくレディバグを見遣りながら、手に入れたアイテム、お金を確認していく。5zか、ふむ。
相方を見てみよう。
不慣れかと思いきや、矢をかけてから引いて放つまでの所作が綺麗だった。凛々しくも見える桜色に紅潮した頬がかわいらしい。
ふーっと聞こえてきそうな緊張が溶ける呼吸が聞こえてきたような錯覚を覚えると、どうだった?と、この何某は聞いてきた。
「……随分手馴れてますね」
「どうして敬語なんだい?」
別に羨ましいとかではない。想像していた俺のかっこいい動作が再現できなくて悔しいだけだ。……なんて話したらなにかのツボに入ったのか、小学生かよという呟きと共に壊れてしまった。酷くない?
すると、他のプレイヤーが魔法を使っているのを俺たちは目撃したのだ。火の魔法攻撃。頭上から敵に対しゆっくりと、けれど一直線に放たれた魔法はレディバグを焼き尽くしていた。
アヤメはワクワクした様子で羨ましがっていた。それはもう尻尾があったら振り回しているんじゃないかってぐらい。
相手のプレイスタイルを真似るようで申し訳ないが、初心者同士なら聞けるんじゃないか?魔法使いの戦後処理を終えるのを待ってから話しかける。
「それなら街の魔道士ギルドで登録が可能ですよ。PKと勘違いしてびっくりしたー。」
何も隠す内容でも何でもなく、事前に調べていれば既出情報だったらしい。
ありがとう。通りすがりの魔法使い君。そしてごめん。勘違いさせてごめんねってアヤメが近くで言うもんだから先方がバグってる。
お兄さんその距離感は不味いんじゃないって思うんだけど、本人的にはいいのだろうか。
いいのだろう。
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