1歩目
「久しぶり」
そう言えただけで第1歩。
もっとマシな声がけがあるかもだが、これ以上はがんばれない。外行き用の面構えと身内に対する面構えは違うのだ。
「……どこか変?」
少し黙りすぎたか。アヤメ(ちゃん?)さんは至って真剣だ。変というなら俺が変だ。なんか見知らぬ女子とゲームしてる感じでソワソワするのだ。キモイね、へへっ。
「似合ってて……さっ桜色が女の子らしくていいんじゃない?」
まずい、下手に打ったかもしれん。
が、アヤメちゃんさんは頬を少し赤らめながらおちょぼ口で、汗がぴよぴよと出ていきそうな感じで目線が下がっている。
困っているように見えるが良かったのか?誰か正しいコミュニケーションを教えて欲しい。えぇいままよ。
「良かったら一緒に釣りしよっか?」
頷くと一緒に桜色の髪が揺れる。どうやら自分の目線は伸びた髪の毛を注視してしまっているらしい。ジロジロと眺めるのは良くないことだとは思うのだけれど、それでも見てしまう。
この感覚は何なのだろう。中学校の女友達に対して高校の頃に肉体的欲求を求めてしまったあの気持ち悪さとは異なる感覚。
ひとめぼれ、という米の品種があるが、出会い頭にそのおいしさにひとめぼれした様からその名が来ている。
いや、アヤメに?……それはないかもだな。
きっとこの感覚は猫じゃらしが振られていてそれに飛びつきたくなる、構ってやりたくなるそんな感覚に違いない。
「カイト、話は聞いてたけど大学生かぁ。実際リアルで釣りとかアウトドアしてたり?音楽フェスとか行ったりするフッ軽なのかい?」
一体、アヤメの中で俺はどういう人間になっているのだろう。フッ軽は否定しつつ、でも音楽フェスで初参加した時に、寒さから来る震えを通行人に、「アル中だ、やべぇ」と言われたことを話すのだ。
「え〜、アル中って。まだ未成年だった時の話だよね。生臭坊主〜。」
聖職者ではないので以下略。まぁ大学では真面目で通ってるから、近からず遠からず。
アヤメのかかった、という呟きと共に、その手には小さなザリガニが釣れていた。おめでとうと言うと、屈託のないはにかんだ顔が印象的だった。
「10回でスキルが生えてくるぞ。」
「釣竿で戦えるように?」
「それは試したことないけどさ。」
【釣り竿】だから、もしかすると戦えなくもないのだろうが、メイン武器として使うつもりはない。メイン武器として使っていてもそのうち拳で戦う主人公になってしまいそうだ。
それにしてもその格好について、そろそろ説明してくれてもいいんじゃないかな?
「今日ログインしたらさ。」
うんうん。
「びっくりしちゃってさ。」
来たかな。
「ゲームの中で風を感じるなんて体験はじめてで、それにお嬢ちゃん足元気をつけてとか行き交う人に言われちゃったりしてさ〜」
お嬢ちゃんのくだり、もう少し聞きたいかな。
「それで街の中ある程度散策して、猫と戯れちゃったりして〜かわいかったなぁ」
遠のきそうね。
「そしたら【調教】っていうスキル生えてさ〜」
猫に話題を食べられちゃったか〜。
「ちゃんと聞いてる?」
桜色のハイライトの入った大きな瞳がこちらを覗き込んでくる。自分が美人であることを全く意識していない。これだから無自覚っていうのは恐ろしい。
「それで1番驚いたのはさ、もう気づいてるだろうけど……」
あ、竿を引いてる、16匹目だ。ちょっと形が違う。なに、ザリエビ?【釣図鑑】解放?ちょっと情報量が多い。待って待って。
「聞いてる?」
聞いてる聞いてる。……髪の毛の話だよね、あ、その……ごめん、違った?
大変ご立腹になっていた。けれど、その唇をきゅっとする仕草は可愛らしいですね。
「……しらない。」
ぷいっと音が出るんじゃないかって感じで顔を背ける。そんなことをしているから獲物が釣り糸を引いていても気づいていない。どこか上の空のようだ。
「しらないっ!!」
糸を切られたようだ。
かかってるぞーと教えたのに(´・ω・`)
これが最初の1歩目だった。
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