友人の魂は女の子!?
@YodomiADI
久しぶり
桃太郎のような童話がある。よくある昔話、子どもに聞かせる小さな読み物。
教訓めいたものだったり、ただの英雄譚であったり。
書き物にも種類がある。
フィクションの小説。中にはノンフィクションだったりするけど、噓から出た実、ここだけの話、フィクションをノンフィクションにする新技術が生まれたのだ。
魂の解析。それは、軍事利用されもしたし、凄惨な過去を生んだともいわれている。
しかし、それは200年ほど前のことで、実感している若者は少ないのが悲しい現実である。
今ではその知識がゲームに利用されて、VRの正解を担う一大エンターテインメントとなっている。
早い話、その技術をVRMMOに取り入れたらどうなるのか、その1stとなるのがつい3か月前に先陣を切る形でスタートダッシュしたのだ。有名な清涼飲料水会社がコラボしており知名度も高いのだが、俺はまだ遊ぶための機械を手に入れてなかったのだ。
機械の名前は「Driumlizer」夢のdreamと水槽とかのaquariumの-riumからとってドリアムライザーという。これが40000円で売られていることに驚くべきことだと思うが、大学生1年生の冬に発売が決定していたのだが、金欠で買う機会を逃した。冬休みに短期派遣バイトをしたため18万ほどお金に余裕ができた。機械本体とソフトウェアのどちらも買うことができる今は春休みだ。
買う準備が整っただけではなかった。品薄における転売対策でクレジットカードを持っている人対象にドリアムが買えるキャンペーンがやっていたのだ。運も味方した。
そんでもって何を隠そう、ここはもうゲームの中だ。「Time Gap Online」Gap timeで隙間時間なのだが、GTOだと商標登録ができなかったので順番を変えてTime Gapにしたそうだ。
ログインしたとき、人によって気持ち悪さを感じるようだが、個人的にはむしろ気持ちが昂るようだった。容姿を自分で整えるかAIのランダムでいじるかしたら後はスタートだ。
一応言っておくとネカマネナベはできない。高度な技術が使われているが、精神及び記憶への異常をきたす恐れがあるそうで、同じ性別とされている。戦争の名残だそうだ。
本当に流行るのかどうか考え物ではあるけれども、初めての五感を使うゲームだからこれぐらい緩い方がいいのかもしれない。自分の行動でスキルを獲得していくことになるので、反復行動が大事になるゲームだ。
時計を見るとまだ正午を過ぎる前だった。正午を過ぎてから来るであろう友人を待つこととする。
友人というのは中高一緒だったのだが、今度久しぶりに会わないかと誘いがあったもののなかなか地理的金銭的に余裕がなく会えなかった旧友である。離れても何度か連絡を取り合っていて、TGOの話をした際、それで一緒に遊ぶのはどうだということになったのだ。
時間もあるし少し周りを見渡す。
広場はちょっと見回したぐらいでは知り合いが来たかどうかなんて分からないぐらい、新しい人が次々に新天地に降り立って行く。中には駆け出して行く者も見受けられた。
もちろん俺もスタートダッシュしたい気持ちはあるが、いかんせん第二陣、焦ったとしても3ヶ月の差を埋める気概はなかった。
すこし先の道にはベテラン勢が数名スカウト目的で第二陣を待ち構えているようだった。まるで大学の新歓みたいなノリだ。ギルドの1日体験会、と書かれた木の掲示板を回す様はどこかファンタジーには似つかない。
すると1つのギルドが「釣り具貸し出してます」という張り紙を出していた。
橋の間から何人か釣り糸を垂らしている人がいる。少し暇を潰すのもいいかもしれない。欲を言えばスキル獲得につながるかもしれない。
すみません、と声をかけて貸してもらう。手持ちの10zと餌含め釣具で最初のアイテムトレード。10回釣りができるというわけだ。
手ほどきを受けながら、慣れない手つきで切り身のようなものを先端につるした釣り糸を垂らす。なんでもザリガニが釣れるらしい。
こんなことをしていて友人に本当に出会えるのだろうか?
そう思う読者の方もいらっしゃるだろう。最初の街では初ログイン24h以内であれば名前検索機能が有効なのである。しかし、検索だけでは場所は分からない。さらに、オンラインゲーム、††で名前を囲っているのは馴染み深いだろう。その点、自分の名前は運良く複数人いないオンリーワンな名前だ。きっと見つけてくれるに違いない。
俺は彼の名前を聞くことを忘れていた。
彼には名前を伝えているし、13:00を過ぎても見つからない場合、1度ログアウトすると決めてある。抜かりはあったがまぁいい。
と、釣り糸に反応がある。試しにあげてみると小さいザリガニがくっついていた。ストレージにしまうか捨てるかの2択だ。話を聞くとザリガニは売り物になる。これで無限に釣りができるわけだ。……釣りの引換をしているプレイヤーはこれで獲得できるスキルがないかの検証をしているらしかった。抜け目がない。ちなみに【商才】というスキルが生えてきたそうだ。
そういえばこのエサは何のエサだろう、確かめてみると「タイラントシャークの切り身」という表示。強そうです。
10回釣りを行うと「釣り竿」が生えてきた。しめしめ。と、思っている場合ではない。もうすぐ13:00に差し掛かろうとしていた。どうやら見つけることができなかったみたいだ。
現実に戻ることにする。
Dizcordを開く。そしてアヤメという名前を押して、コメントをつける。
25XX/3/12/13:02
カイト:やぁやぁ
25XX/3/12/13:02
アヤメ:やっほー( *ˊᵕˋ)ノ
アヤメ:思ったより広いね!
25XX/3/12/13:03
カイト:わかりみ
カイト:どこ集合にしようか?
カイト:釣りしてたところだけど
25XX/3/12/13:04
アヤメ:釣りできるの!?
アヤメ:いやそうじゃなく、
アヤメ:フレンドコード送っとくね!
25XX/3/12/13:05
カイト:そういやそうだった( ゜д゜)
25XX/3/12/13:06
カイト:入力完了〜
25XX/3/12/13:06
アヤメ:うっかりうっかり?
25XX/3/12/13:07
アヤメ:それじゃマップ見て迎えに行くから
25XX/3/12/13:07
カイト:釣りして待ってる_( ˙꒳˙ _ )
ꐦ1
なんか怒られた。
というわけで再度ログインして10zで交換し待つことにする。
これから会う相手について考えることにしよう。
アヤメはどちらかと言うと中性的な顔立ちをしていたように思う。久しぶりにあったら男性ホルモンで男性的になっているかもしれないし、容姿を弄って男らしくなっているかもしれない。
こう言うのは、アヤメは中学の時に女装させられてコンテストで入賞していた経歴を持つからだ。
あの時は女子勢が腐ってたりノリが酷かったりで気合いの入れようが凄かったのだが……本人が満更でもなさそうだったのが印象的ではあった。
誰かが来たようだ。
腰まで下ろした髪を揺らしながら女性が近づいてくる。伸びた桜色の髪の毛は実にファンタジーっぽくて可愛らしい。両手を胸の前で開いたり閉じたりしている様子もかわいい。
なんだろう。自分には話しかけやすいオーラが出ているのだろうか。こちとらニュービーですよ。緊張気味なのが移ってしまいそうだ。しかし、俺が待っているのは悲しいかな男だ。女性ではないのだ。紳士的に行こう。
「釣りに興味あるのでしたら、あちらの方が詳しいですよ。一期一会の何かの縁、なんならフレンド交換します?」
まぁこれといって他に聞きたいことも無いだろう。……という訳でフレンド欄を開いてぜひ美人さんとお近付きに……あらあらなんだかフレンド済みの表記、そしてマップ上には知り合いの表記が目の前にあるのですが。
目の前の女性が困惑している。このゲームは、フレンドにチャットができる。
25XX/3/12/13:14
カイト:ごめんちゃい(´>∀<`)ゝ
目の前の女性が挙動不審である。やはりそうなのだろう。ちょうど釣竿に反応がある。ザリガニをくれてやろう。
「両手出して?」
「どうしてそういうことするの!?」
ザリガニはハラスメント扱いにはならないようだ。あくまで事故扱いなのだろう。どうにか自分の精神を落ち着けなければならない。
声は女性らしく、骨格だって女性である。くびれの位置や出るとこは出てしまるとこはしまっている。
だが男だ。
ちょっと近くにいるだけでシャンプーのいい香りのようなものがする。電車で隣のおじいから漂うシャンプーの香りとは全くの別物である。
だが男だ。
フレンド欄をもう一度見てみよう。フレンド交換した相手の性別については何も書かれていない。それはそうだ。必要な情報では無い。
男なのか?
もう一度目の前の女性を見てみよう。どこか中性的ではなかろうか。いや、そんなことはない。
だが男のはずなのだ。
「ねぇ、待った?」
にししっと、少し体を屈めて下から目線であざとく腰に手を回しちゃって、笑顔である。イタズラが成功したかのような嬉しさをはらみながらこちらを見るのは女っ気がない俺には毒である。
どうでも良くなった。
毒気のない眩しい笑顔は女性アバターであることが苦ではないみたいだ。人には人の楽しみ方がある。彼も彼女として遊ぶことを楽しむつもりなのだろう。
「久しぶり」
さて、友人の魂が女の子のようだがどうしたら良いのだろう?
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