第53話
嬉しい事にクリスはディヴィットの夢を数日おきに見るようになった。
クリスはディヴィットに抱きしめられている事に気付いても、話しかける事なくまた眠る。
何故ならディヴィットが眠っているから。
おしゃべりしたい気持ちはあったが起こすのは悪い気がして、そっと寝顔を眺めている内に自分も寝てしまう、そんな夢だった。
それだけなのにすごく嬉しくて、だから朝起きてすぐに犬に夢の事を話した。
「聞いて、ディヴィット。昨日の夜、またディヴィットの夢を見たのよ。あなたじゃなくて、人間のディヴィット。私を抱きしめてくれてるの」
犬は何も言わず、それを聞く。
「残念な事に、また寝顔を見てる間に寝ちゃったのよ。キスし損ねたわ」
クリスはそう言って犬の顔を両手で挟むと、キスをした。
ディヴィットの代わりだ。
犬はクリスの顔が近寄ると自分の顔を背けるので、クリスは両手で抑えなければならなかった。
「まったくもう。流石に慣れてもいい頃じゃないの?そんなにキスされるのが嫌なのかしら?他の犬は自分からぺろぺろと舐めてくるのに………」
クリスは小さく息を吐いて、服を着た。
この犬が他の犬と少し違う事は気付いている。
吠えないし、はしゃがないし、粗相をしない。
こちらの言う事を理解している風なのを鑑みても、他の犬より段違いに賢い犬だ。
だから“犬らしい仕草”をする所をあまり見ない。
「今夜もまた夢で逢えたらいいなぁ。ねぇ、ディヴィット。どうやったら毎晩逢えるようになるかしら?」
犬はクリスの言葉など分からないというように、クリスを見ている。
「ま、返事を期待した訳じゃないわ。さぁ、行きましょう。お腹空いたでしょう?」
そうしてまた一日が始まるのだった。
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