第48話
グレンダは犬の寝床を台所にしよう、と提案したが、クリスがそれを受け入れなかった。
「グレンダ伯母様、私の部屋ではいけませんか?」
「部屋に?」
「えぇ。実は広すぎて少し寂しかったんです。ディヴィットがいてくれたら寂しくないと思って」
実際にクリスが与えられた部屋は、実家が家ごとすっぽり入りそうな程広かった。
高い天井がそう感じさせているのかもしれないし、天蓋付きのベッドと鏡台、書き物机くらいしかない所為かも知れない。
それとも家族の声がしないからかも。
笑ったり、泣いたり、怒ったり。
そんな家族の声はこの家では皆無だった。
ディヴィットがその静けさをほんの少しでも解消してくれるかもしれない、とクリスは考えた。
グレンダは少し考え、それから小さく息を吐いた。
「しょうがないわね。ではあなたの部屋にしましょう」
クリスはグレンダに礼を言った。
グレンダはクリスに笑いかけると、腰をかがめ、犬の鼻面に人差し指を突き立てた。
「いい事?調子に乗るんじゃありませんよ。私の目は誤魔化せませんからね。さっきのは大目に見てあげてるのよ」
グレンダは犬に脅す様な事を言う。
クリスは不思議だった。
さっきのってなんだろう?
調子に乗るんじゃないって?
そういえば、グレナダ伯母様も同じような事を言ってたわ。
………双子って、こういう所まで似るものかしら?
クリスは尻尾を巻いてしまった犬を見て、くすくす笑った。
「大伯母様、ディヴィットが怖がっているわ」
「怖がらせているのよ。どうも破目を外しそうな気がするから」
「どういう意味?どんなに賢い犬でもこちらの思うようには動かないでしょう?」
クリスの言葉にグレンダは頭を振った。
「もちろんそうだけど。でも、家の中に自分の味方ばかりではない事を教えておかないと、犬はとんだ粗相をするものよ。クリスを傷付ける様な事になったら目も当てられないわ」
「平気よ、大伯母様。ディヴィットは私を傷付けたりしないわ。噛んだり引っかいたりするはずない。だって、こんなに賢い子なんですもの」
クリスはしゃがんで、ディヴィットの首に抱き付いた。
「お前、私を傷付けたりしないわよね?守ってくれるのよね?」
頬ずりすると、犬は嬉しそうに、くぅんと鳴いた。
「ほらね、大伯母様。ディヴィットはいい子よ。私を守ってくれるの」
クリスはにこにこ笑って、犬の頭を撫でた。
グレンダはまた小さく息を吐いた。
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