第42話


クリスは町を抜けると、人通りが途切れる所を目指して歩いた。


早く、早く。


ディヴィットに気付かれないうちに遠くに行かなくては。

道を逸れ、森に入り、奥へ、奥へと歩く。

気持ちばかりが焦り、何度か木の根に足を取られた。

それでも歩く。

と、足がもつれ、バランスを取ろうとしたが思いっきり転んだ。


「ぅくっ………」


転んだ拍子に胸を打ち、息が止まる。


「……たぃ………ぃたぃ………ぅ……ぃたいよぉぉ…」


クリスは胸を抑えたまま蹲って泣き声を上げた。


「ぃたいよぉぉ……ぃたぃ……っくっ………ぃた……………」


泣き声は静かな森に響いた。


「たすけて………ぃたぃの………けて…………ディヴィット……」


打った所はもちろん痛い。

だがそれよりも、体の奥の方が痛かった。


クリスはディヴィットの名を呟き続けた。

だがもちろん彼がその姿を現す事はなく、辺りには自分の涙声と鼻をすする音だけ。

クリスは分厚く降り積もった木の葉の上に寝転がり、それを聞いていた。


『クリス』


クリスが落ち着いたのを見計らったように、どこからかリンダの声が聞こえた。


『クリス。私のアドヴァイスは役に立った?』


クリスは頭を振った。


「全然役に立たなかったわ、リンダ……」


クリスは声に出した。


「だって、私はあなたが一番勧めない方法を選んだもの。あなたが今まで一度として選ばなかった方法を。だって、私は意気地無しだもの。告白してそれを拒否されるのが怖かった。そんな事を言って、嫌われるのが怖かった。だから逃げ出したわ。なのに………」


クリスは胸を押さえた。


「痛いのよ、リンダ。痛くて辛くて堪らない。こんな事なら徹底的に嫌われる様な事をすれば良かった、と思うくらいに。そうすれば、胸が張り裂けて死ねたでしょうに………どうして私は告白しなかったのかしら。あなたのアドヴァイスに従っていれば………そうすればこの痛みはなかったのかしら………ねぇ、リンダ。家に帰ったら教えてね」


クリスはゆっくり起き上がると杖を出した。

そうして。

クリスの旅は終わった。

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