第41話


ディヴィットが重たい頭を抱えてやっと起きたのは昼過ぎ。

久しぶりの酒なのに、あんなに飲むから二日酔いだと反省しながら顔を洗い、何とか身支度を整えて部屋を出る。

まずはクリスの部屋をノックした。

返事はない。

ラルフと話でもしているのか、と食堂に向かったが、そこにもいなかった。


「やっと起きたのか」


後ろでラルフの声がした。


「あぁ。二日酔いだ。何か頭がすっきりするような奴くれ」


ディヴィットは傍のテーブルに座って、酒臭い息を吐いた。

ラルフがテーブルに冷たい水とスープの皿を置くと、向かいに座った。

ディヴィットは水を飲んでから、人心地ついたように大きく息を吐いた。

スプーンを取り、スープを流しこむ。


「なぁ、クリス知らないか?部屋にはいないみたいなんだ」

「あぁ、彼ならもう随分前に旅立ったぞ」

「………は?」


二日酔いで頭がいまいち働かないディヴィットは聞き返した。

ラルフは呆れたような顔をして、ディヴィットを見る。


「そんなに飲ませた覚えはないが、戦場で酒が出たとは思えん。どうやら弱くなっちまったようだな」

「ぃや、そんな事を聞いてるんじゃない。今、クリスが旅立ったって、そう言ったのか?」

「あぁ、そう言った。伝言を預かってるぞ。“ありがとう。楽しかった”それから」

「それから?」


ディヴィットはスプーンを放り出し、テーブルに身を乗り出した。

ラルフはその勢いに少々戸惑いながら口を開く。


「“お幸せに”だそうだ………ディヴィット!何処に行く?」

「クリスを連れ戻す。夕方まで待ってくれたら、俺、元通りになるからって……あぁ!くそっ!!」


ディヴィットはテーブルを離れて、1、2歩進んだ所でよろけ、テーブルに手をついた。

がたがたとテーブルごと転びそうになるのを、何とか踏みとどまった。

まだ酔いが抜けていない。

ラルフはそんなディヴィットに手を貸し、近くのテーブルに座らせた。


「しっかりしろよ……どうかしたのか?」


ディヴィットが脱力したように椅子に座り頭を抱えたのを見て、ラルフは心配になった。


「すまん。俺は起きるまで待ってやれば、と言ったんだが、クリスは先を急ぐからと……金でも貸してたのか?」


ディヴィットはゆるく頭を振る。


「借りがあるのは俺の方だ。それを返す為に俺はあいつをスタッフィードまで送るって決めてたのに………なんてこった」

「それ、クリスも知ってたのか?」

「あぁ。本人に言った。それなのに、何で先に行っちまうんだ?」


それを聞いたラルフは、ふふんっと鼻で笑った。


「お前な、昨日のお前の言葉を聞いてクリスがどう思ったと思う?女に会わせてやろうって思うだろ。ここからスタッフィードまで行って、また戻るとなればふた月余計にかかっちまう。クリスはそれを思ったんだよ」

「あ………」


ディヴィットは呻いた。


「まぁ、俺としちゃ、クリスと一緒にスタッフィードまで行って欲しかったがな。そうすりゃお前のバカさ加減を見るのが先になる」


ラルフはそう言ってディヴィットの肩を叩いた。


「クリスが納得して出てったんだから、その借りとやらももうチャラになってるだろうさ」

「そうじゃねぇ………そうじゃなくて。俺は………あいつは………」


ディヴィットは頭を抱えたまま呻き続ける。

ラルフはその様子に肩を竦め、こう言った。


「気にすんなよ、ディヴィット。所詮、道連れ、だろ?」

「そんなんじゃねぇ!」


ディヴィットは怒鳴った。

顔を上げ、二日酔いで血走った眼でラルフを睨みつける。


「あいつは道連れなんかじゃない。あいつは、クリスは………」


ディヴィットは言葉を絞りだそうとして、ラルフの不思議そうな眼に気付いた。


「クリスが何だ?」


ラルフが問う。

ディヴィットは、ごくりと喉を鳴らして、それから答えた。


「……友達なんだよ」


ディヴィットはそれだけ言って、また頭を抱えた。

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