赤子

第24話


クリスが旅を初めて半月ほど経って。

ちょうど日暮れに大きめの村についた。

その村には宿があった。


今までも宿のある村を3つほど通った。

だが着いた時はいつもまだ昼間で、野宿が苦ではない二人は食事を取ったり、食料を手に入れては先に進んでいた。

二人は宿の前にしばらく立っていた。

どちらが先に戸を開けるか、その事でお互いに牽制しているようだった。


「今夜は宿に泊れそうね」

「そうだな」


クリスの言葉で、ディヴィットが動いた。

戸を開けて、中に入る。


「親父、部屋はあるか?」


奥から出てきた主人に、ディヴィットはこう聞いた。


「はい、もちろんで」


ディヴィットは後ろを見た。


「部屋があるそうだ」

「………良かった」


クリスは笑顔を作った。

主人は顔を顰める。


「お客さん方はお連れですか?なら御用意は一部屋で?」


主人の顔が、損をした、と言っている。

ベッドが2台の部屋の方が、二部屋分よりも宿賃は安い。


「そうだ。一部屋で良い。ベッドは2台いるけどな」

「ぁ、ちょっと待って下さい」


クリスはディヴィットの腕を引いて、主人の傍を離れた。

主人はきらっと目を輝かせた。

もう一人が自分の部屋を欲しがっているんだ、と彼は見抜いたのだ。

お客さん、上手く説得して下さいよ、と主人は祈りを込めて二人を見る。


「どうした?」

「どうしたって………一部屋でいいの?」


クリスは小声で聞いた。


「いいだろ?別に………あぁ、心配しなくても俺は絶対にあんたの方を見ないから」


ディヴィットも小声で応じる。


「そうかもしれないけど………」


信用してない訳ではないが、やはり抵抗がある。


「信用しろよ」


ディヴィットはそう言うと、後ろを見た。


「親父、一部屋で良い。鍵をくれ。それから湯の用意もな」


主人は、残念そうに鍵を1本出した。

ディヴィットはそれを受け取ると、宿代を払い、クリスを見る。


「荷物置いてから飯にしよう」


クリスはディヴィットの後について廊下を歩きだした。

クリスの後姿に主人がそっと声をかける。


「お客さん、お連れのいびきがうるさいんでしょう?ケチな連れを持つと、苦労しますねぇ」


主人はクリスがディヴィットの説得に失敗した理由を、いびきだと勝手に思い込んでいた。

旅で連れと別の部屋を望むのは、いびきが理由の事が多いからだ。

そうだったらどんなに良いか。

クリスは何ともいえず、苦笑いを浮かべた。

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