第13話


食事を終えて二人は部屋に戻った。


「ベッドは僕が使います」

「あぁ、そういう約束だったもんな」


クリスの宣言とも言える言葉に、ディヴィットはあっさり同意した。

そのまま暖炉の傍に行き、腰から剣を外すと床の上にごろんと大の字になる。


「もう寝るのですか?」

「ん?そうだけど………話しでもするか?」


ディヴィットの言葉に応える事なく、クリスは荷物の中からロープを出した。


「では、後ろ手に縛ります」

「は?」

「足も縛りますから。そういう話だったでしょう?」


ディヴィットの訝しげな顔に、クリスは応えた。

途端にディヴィットは顔を顰める。


「俺を泥棒扱いするのか?」

「はい。そこまで信用していませんから。ほら、出して下さい」

「クリストファー、あんたな、後ろ手に縛られてどうやって寝ろって言うんだ?」


ディヴィットは反抗した。

だが、クリスも引かない。


「知りませんよ。でも前で縛ったら意味はないでしょう。あなたは僕の好意でこの部屋で寝られる事になったんです。文句言うのなら出て行って下さい」


出て行け、の言葉に、ディヴィットは起き上がり、渋々クリスに背中を向けた。

背中に回した手をクリスは器用にロープで縛った。

同じように足首も縛る。


「では、おやすみなさい」

「ぃや、待て。良く見ろよ。これで眠ったら肩を脱臼しかねん」


クリスはディヴィットの言葉に、ふぅ、と息を吐いた。

確かに後ろに両手があるから、仰向けに寝るのは難しいだろう。

かといって横向きでは彼の言うように肩を痛める事間違いなし、だ。

だったら………


「でもあなたが言いだした事ですよ。うつ伏せで寝ては?」

「無茶言うな。首を寝違える」

「軟弱ですねぇ………では、こうしましょう」


クリスは後ろ手に縛っていたロープをほどいた。


「お?手を縛るのは諦めたか?」

「いいえ。別の方法を使うんです。ここに来て横になって下さい」


ディヴィットの嬉しそうな声に否を唱えると、クリスはナイフでロープを真ん中で切った。

ディヴィットは首を傾げながらもクリスが示した場所に横になった。

クリスは1本のロープでディヴィットの右手を縛った。


その反対側はベッドの脚に縛り付ける。

残った1本のロープで左手を縛り、その反対側はベッドの別の足に縛り付けた。

ディヴィットは両手を左右に広げた状態でベッドの脚に縛りつけられた格好だ。

それでも少しならひじを曲げれる程、ロープの長さに若干の余裕を持たせてあげた。

ディヴィットは手を動かし、その長さを確かめている。


「まぁ、これなら何とか………」

「では、おやすみなさい」


クリスはブーツを脱いで、上着も脱ぐとベッドに入った。

本当はシャツもズボンも、胸を押さえつけている忌々しい布も取りたかった。

だが。

人前で寛ぎ過ぎるのは危険だ。

もし、万が一、何かの拍子で、女だとバレたら?

そのリスクを考えれば、これがベスト。


「ぉい、ランプの灯りを消してくれ」


ディヴィットの声に促されるように、クリスは火を消した。

部屋は暖炉の火で十分明るい。

クリスは息苦しいような気がしてもぞもぞと体を動かした。


「なぁ、クリストファー」

「はい?」


ベッドの下からの声に応える。


「眠れないんだったら俺が添い寝してやろうか?子守唄付きで」

「結構です。ベッドには上げません」

「なんだよ、ケチ。このベッド、二人で寝れる程広いじゃないか」


下から不満げな声が聞こえる。


「絶対嫌だ。もう寝て下さい!」


クリスは頭から布団を被った。

なぁ、とか、ぉい、とか。

呼びかける声を無視している内に、クリスは眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る