第6話 フェアリーの心中
【大都市エタンセル】
第三大陸の中央に位置する大都市であり、現領主であるイルセラ・フー・エタンセル13世が座する領地。
平野に沿って広域に築かれているその大都市は人口五〇〇〇〇を誇る。
【炎の神殿】を中心に円状に広がっていて、その白と赤を基調とした街並みは炎のように美しい。
高所には時を刻む時計塔。
観光名所は数あれど、やはりとりわけ目立つのは神秘的な雰囲気を醸し出す【炎の神殿】。
立ち並ぶ大理石の柱が目を引く。
その神殿は壮大なスケールと威厳を持ちながらも、シンプルで洗練されたデザインが特徴だ。
神殿の入口は雄大なアーチで飾られ、彫刻された炎が石に刻まれている。
その彫刻は細部まで緻密に作り込まれており、サラマンダー様の力強さと神秘性を表現しているような気がする。
人間のこういう器用なところは正直フェアリーも評価している。
自分たちにはない発想で様々な物を作り、自分たちの生活を彩っていくその様は世界樹さまさえ驚くほどだ。
「でっか! これが【炎の神殿】なんだ。すっごーい」
リズが感動を口にすると、隣のフェアリーは腕を組んで賞嘆した。
「人間のこういう想像力だけは、評価せざるを得ませんね」
【炎の神殿】の
フェアリーとリズもそれに習って神殿の中へと入った。
神殿の内部は広々とした空間が広がっており、物々しい石柱が壁の代わりに並んでいて、風通しはやたらいい。
高い天井には美しいステンドグラスが輝いていた。
そのステンドグラスにはやはり炎が画かれている。
しかし炎だからと言って赤一色ではなく、色彩豊かな光を生み出すよう工夫されており、太陽光という名の聖なる光を通して神殿内を照らしている。
まるで炎の祝福が降り注いでいるような感覚に包まれる素晴らしい空間だった。
礼拝者が座るベンチが並び、中央にはサラマンダー様への奉納物が置かれた祭壇もある。
そしてそのさらに奥に例の【消えない炎】が燭台の上で神々しく燃え盛っていた。
「あれが【消えない炎】……こうして見ると普通の炎ね」
「炎の起源ですから当然です」
ぴしゃりと言葉でリズを叩いたフェアリーだが、この神殿の作りには満足していた。
この地球の人間はまだしっかり精霊への信仰を忘れてはいないようだ。素晴らしいことだ。
感心しながらリズと共にベンチに座り、サラマンダー様の【消えない炎】に向かって祈りを捧げた。
そして思う。
それでもいつかは、忘れてしまうのだろうな……と。
フェアリーの心の片隅に湧いた黒い感情が、人間への希望を打ち消していく。
人間は必ずと言っていいほど精霊への信仰を忘れ、精霊に見捨てられ、見捨てられたことにも気づかず、最後には【科学】という名の力で地球を滅ぼし絶滅する。
この地球の人間もいつかはまたそうなるのだろうか?
人間は本当に、命をかけてまで守る価値があるのだろうか?
散って行った仲間たちが報われるにはどうしたらいい?
世界樹さま……あなたは人間が尊い存在だと仰いますが、我々妖精の気持ちを考えたことはありますか?
戦って、戦って、守り抜いて。
最後に壊される者の痛みを、考えたことはありますか?
フェアリーは絡めた両手にグッと力を込めて思いを吐露する。
それで何かが救われるわけでもないし、変わるわけでもない。
自分は、仕方ないと言い続け、一人の兵士として戦い死ねばいいだけの存在ではなかったか?
いつからこんな風に考えるようになってしまったんだろう?
……思い当たるのは自分と同じく長年生き残ってきたフェアリーとの出会い。
【彼】もまたフェアリーと同じく、人間に何度も自分の地球を壊されてきた妖精だった。
彼も人間を恨んでいる。
こんな恨みを持つ前に戦死できれば良かったと嘆いていた。
そうだ。
戦死できれば楽だったのに、今も自分は運良く生き延びている。
いや、運悪く……かもしれない。
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