第9話 死亡イベントで蘇生アイテム使わないのなんでだろう
今頃、スライム将軍のスレインが、アリス抹殺の任務を受けているはずだ。
事実、アリスはスレインに殺される。
これを回避するには破滅イベント当日、アリスをさらいどこかへ隠せばいいがそれは悪手だ。
そんなことをすれば俺はアリスからの信頼を完膚なきまでに失うだろう。
そうすれば今後、他のキャラの破滅フラグを粉砕するのに支障をきたす。
それに、そんなその場しのぎをしたところで近いうちにまた別の方法で殺されるだろう。
だったら方法は一つだ。
シナリオ通りにスレインと闘ったうえで、アリスを守り抜き勝つ。
そのために、チートを利用しまくってレイドたちを強くする必要がある。
錬金屋で錬金したセイクリッドソード改、パンドラボックスから出てきた装備、それをルーン文字で強化したものを、レイドとアリスに渡しておく。
それから俺は五日後までに、できるだけ自分を鍛えてレベル上げに専念する。
スペック上は、十二神将の一人であるスレインになんとか食らいつけるようになるだろう。
それでも、俺がアリスの破滅フラグを回避できる確率は未知数だ。
何故なら、この世界の正体と、破滅イベントの攻撃力がわからない。
今朝、俺が案じたこの世界の正体。
ゲームの中の世界。
ファンたちの想念が集まってできた世界。
そのどちらでもなく、ここがもしも絶望クロニクルの元になった世界なら、あるい意味最悪だ。
つまり、ここはゲームの世界でもなんでもなくて、本当に実在する地球とは別の異世界という可能性だ。
これも漫画やアニメ、ラノベで時々ある設定だ。
この世には無数の異世界があり、作家は異世界を幻視したものをアイディアが湧いてきたと言っている。
つまり、この世界の歴史をゲーム化した二次創作が絶望クロニクルであり、この世界はゲームの常識にまったく縛られていない可能性だ。
その場合、俺のゲーム知識はほころびが出る。
また、仮に本当にゲームの世界だった場合でも、イベントシーンの扱いがどうなるかはまったくわからない。
これがイベントバトルなら、スレインの攻撃力を上回る防御力で、アリスの破滅フラグを回避できる。
だけど、アリスはバトルで死ぬのではない。
とあるイベント―ムービーにおけるスレインの攻撃が原因で命を落とすのだ。
――イベントムービーの攻撃に、攻撃力って設定されているのか?
もしも【防御力に関係なく強制的に人体を貫通する】そんな設定法則が働い場合、アリスを救うことは極めて困難になる。
「防御力でどうにもならなかった時の為に、回復関連もそろえておかないと」
俺はレベルを上げるため、独りで学園地下のダンジョンへ向かった。
◆
俺が独りでレベル上げをすること五日。
学園では、アリスが聖女スキルを授かったことを祝うセレモニーが開かれることとなった。
講堂ではなく、より広い学園の闘技場で、セレモニーは盛大に行われた。
フィールドを囲む階段席を埋め尽くす数万人の参列者は学園、政治、軍事関係者だけでなく、一般の国民までそろっていた。
俺も、同じ学園の生徒として、前列に座っていた。
今日まで、俺は五日間授業を休み、地下ダンジョンでモンスター相手に大立ち回りを繰り広げ、レベル上げに勤しんでいた。
レベルが上がるたび、スキルポイントで回復魔法を覚えつつ、ハイポーションやエルダーポーションの容易にも余念が無かった。
一応、戦闘不能復帰アイテムも用意したけど、これには期待できない。
RPGあるあるで、この世界死者蘇生アイテムあるのになんで人が死ぬの? 人死んだら蘇生呪文や蘇生アイテムで復活させておしまいでしょ?
というのがある。
イベントで仲間が死ぬと『ザオラ●しろよ』とか『フェニックス●尾』を使えよ、とか言うあれだ。
そうしたツッコミをかいくぐるためか、昨今のゲームは死亡ではなく戦闘不能という表記に変えている。
この世界における戦闘不能復帰アイテムも、『重症で気絶した人の意識を回復させる』という気付け薬みたいなものになっている。
パンドラボックスのアイテムで仕込みはしたが、あまり期待しないほうがいいだろう。
やるだけのことはやった。
という自信と、
他にもっとやれる方法があったのではないか。
という不安がないまぜになって心臓が痛いくらい激しく脈打つ中、セレモニーが始まった。
煌びやかな僧服に身を包んだアリスが、上級神官たちと一緒に入場すると、会場は拍手と歓声に満たされた。
この後に訪れる悲劇を知らない人たちは、呑気に浮かれ、騒ぎ続ける。
一方で、俺はその時までのカウントダウンを頭の中でしながら、心と体の中で戦闘態勢を作った。
頭の中で何度も動きをおさらない、シミュレーションしながら、荒くなる呼吸を整えようと、深呼吸をする。
最上級神官からの祝福、宗教的儀式、それから、アリスが音を大きくするマイクのような魔法アイテムの前で、会場のみんなに挨拶をしようとした。
「み、皆さん、今日はわたしなんかのために集まってくれて――」
緊張した声を引き裂くように、緊急の鐘が鳴り響いた。
カンカンカァーン!
カンカンカァーン!
カンカンカァーン!
カンカンカァーン!
カンカンカァーン!
――来たっ!
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