第7話 プランBだ
聖女。
そのスキルが持つ最強の特性は、なんといっても聖魔法の8割を最初から使えるということにある。
なんとゲーム序盤から、いきなり最高レベルの回復、強化、防御魔法を使い放題というチートぶりだ。
ゲーム序盤でこんなぶっ壊れ性能のキャラがいていいのかと俺を含めた誰もが思った。
もちろんそんなゲームバランスの悪い話があるわけもなく、彼女はゲーム序盤のイベントで死に、退場する。
これはゲーム序盤でプレイヤーが死なないための安全装置、テイルズオ〇ファンタジアで言うところのマーボーカレー的存在だ。
どんなヘボゲーマーでも、アリスがいる序盤は楽に冒険を進められる。
最初からあたかも強くてニューゲーム、二週目プレイのような感覚を味わっていたらまさかのアリス退場という展開には、全プレイヤーが度肝を抜かれたものだ。
その破滅フラグを回避するためにも、俺は放課後、自分の教室を出てレイドたちの教室へ向かった。
「レイド、アリス」
教室から顔を出し、俺が呼びかけるも、誰も反応しなかった。
教室の角では生徒たちが団子状に固まり、きゃーきゃー騒いでいる。
このシーンもゲームで見た。
きっと、クラスメイト達がアリスに群がっているあのシーンだろう。
ここでレイドは疎外感を感じてしまう。
さっき、俺がアリスのフォローをしたことでレイドには嫌な思いをさせたと思う。
他人のクロードがフォローしているのに兄の俺は何をしているんだろうと。
破滅フラグを回避する上で、キャラクターたちの感情コントロールは重要だ。
レイドがストレスをためないうちに、彼のフォローもしたい。
「おいおいそんなに群がるなよ君たち」
俺は偉そうな貴族ムーブを発揮しながら、大股に近づいた。
流石の生徒達も俺に気づいて腰が引けている。
レイドたちの教室は平民出身の生徒が集まる平民科だ。
貴族である俺の存在は、少なからず威圧感を与える。
生徒たちが道を開けて、アリスたちの姿が見えた。
俺とレイドの視線が合う。
ちやほやされる妹、劣等性の自分、という構図を強引に断ち切り、俺はレイドに話しかけた。
「レイド、これからは毎日、放課後は三人でレベル上げに行かないか?」
「え?」
「アリスはこれから、きっと魔王軍との戦いにおいては最前線に送られる。俺とレイドはそれを支えられるだけの力が必要だ。もちろん、アリス自身もだ」
俺は視線をアリスに向けた。
「アリスも見ただろう? 貴族や軍のあの反応。きっとみんな、アリスを旗頭に持ち上げてなんだかんだと理由を付けて君を色々な場所に引っ張り出そうとすると思う。もしかしたらいきなり聖女様の力を見せてください、なんて言って戦わされるかもしれない。周囲の要求に押し潰されないよう鍛えるのは必須だろう」
俺が浪々と語り聞かせると、アリスは困り顔でレイドを一瞥した。
「えっと、クロードが言っていることはわかるんだけど……実はもうこのあと、教会の人たちに呼ばれていて……」
知っている。
でも、そんなことをしている猶予はない。
原作ストーリーを無視してでも、アリスには強くなってもらわなければ。
「それって強制? 断れない? 正直じいさんたちの政治的アピールに君が付き合ってあげる義理は無い。アリスが大切なのは家族であり困っている人たちだろ?」
アリスは困っている人たちを助けてあげたいと思える優しい子であると同時に、勇者に憧れる兄を支えたいという兄想いな女の子だ。
彼女の優しさに漬け込むようで悪いけど、アリスの命がかかっているんだ。
ここは手段を選んでいるときじゃない。
アリスはかなり悩んでいるらしい。
すると、アリスは眉を八の字にして当惑の表情を浮かべ、助けを求めるようにレイドへ視線を送った。
「許してくれよクロード。大魔道師に選ばれたお前の気持ちもわかるけど、お偉いさんの誘いを無視してアリスに何かあったらどうするんだよ」
困る妹を守るように、レイドは立ち上がって俺と対峙した。
「アリスとお前のペースは違うんだ。あまり無理をさせないでほしいな」
ちょっと語気を強めてから、レイドはアリスの手を握り、その場から離れた。
「兄さん」
兄に守られて、アリスはちょっと嬉しそうだ。
どうやら、俺はまだそれほどレイドの信頼を得ていないらしい。
が、想定の範囲内だ。
そもそも、クロードは悪役貴族でレイドたちからの好感度は低い。
俺の原作クラッシュさせて改心ムーブをかましたけれど、強引感、いや、手の平返し感は拭えない。
だからこれは想定内だと納得する。
――よし、だったらプランBだ。
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テイルズオブファンタジ●のマーボーカレー。ものすごくお世話になった。
料理レシピにマーボー豆腐とカレーがあるのに何故マーボーカレーは作れないんだ。
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