第3話 貴方が落としたのはキレイな悪役貴族ですか?
シナリオ通りなら、ここで俺は死ぬかもしれない。
「クロード、俺はお前に勝つ……お前に勝って、そして」
レイドの剣に、青い光が溢れた。
アリスと、そして周囲の生徒たちの視線が剣に集まる。
ただ一人、当事者であるレイドだけが気づかず、重心を前に傾ける。
「魔王を倒して、この世界を、人類を、救うんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
レイドが駆けた。
レイドが吼えた。
一筋の閃光となり、レイドから迸る衝撃波に俺の制服暴れるようにはためき、肌を叩く圧力に心臓が硬くなる。
――キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! レイド覚醒イベント! 持ってくれよ、俺の体ぁあああ!
会話中もずっと集中し、溜め続けた魔力を総動員し、俺はクロードが使える最大防御魔法を発動させた。
アリスのように全方位を守るドーム型ではなく、一方向だけに特化した、半透明の盾が三枚、重なるようにして出現する。
レイドの青い輝きをまとった斬撃は盾を次々砕き、鋭利な剣身が俺の肩口に迫った。
――おいおいおい、トライシールド貫通しやがったぞ!? これマジで死ぬだろ!? 設定資料集見たけど【必殺の一撃】とか書いた脚本家さん! 必殺って必ず殺すって意味ですからね!
必殺の一撃の威力を限界まで殺した俺は、第二陣、回復魔法を自分自身にかけた。
「――――ッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!????????」
回復を魔法をかけながら受けた必殺の一撃は、控えめに言って地獄だった。
肩の感覚が無くなる。
全身にまるごと巨人の平手打ちを食らったような衝撃で上下がわからなくなる。
激痛が体の中から炸裂する。
レイド君。俺は君のこと大好きだけど、クロードのことは大嫌いだけど、今回だけはちょっとやりすぎだと思うよ君。
全身を満たす鈍痛を洗いながすように、胸元から刺し貫くような痛みが全身に駆け巡る。
意識が消える。
視界がブラックアウトする。
マジで死ぬ。
だけど、ここで気絶するわけにはいかない。
俺の計画のため、レイドたちを、破滅フラグから救うために。
抗いがたい苦痛をやせ我慢しながら、俺は自分が回復魔法装置になった気持ちで回復魔法を発動させ続けた。
すると、視界がチカチカとブラックアウトしながらも、
暗転時間が徐々に短くなっていく。
そうして、気が付けば芝生に四肢を投げ出していた俺は、青い空を見つめていた。
「すごい! 兄さんついに魔力に目覚めたんだね! さっきの、もう一回やって!」
「え? もう一回って、え? 俺、いま何かしたの?」
「何言っているの? いま、剣に魔力を込めていたじゃない」
「そう、なの?」
ゲームで100回以上聞いた会話に、俺は自分が気絶せず済んだことを知った。
――よしっ! 計画通り!
周囲の生徒たちがどよめく中、俺は心の中で勝利のガッツポーズを作った。
回復魔法を自身にかけ続けながら、俺はどうにか上半身を起こした。
それから大きく息を吸って、大げさに声を張り上げた。
「すごいじゃないかレイドくーん!」
「「え?」」
固まるレイドとアリスに駆け寄り、俺はハイテンションに肩を叩いた。
「平民の上に魔力が無い! それだけのハンデがありながら伯爵貴族の俺に勝つなんてすごすぎるよ! 強さに魔力と身分は関係ない、これは革命だ。レイド、君はいま、この世界の常識を一つ破ったんだ。これは偉業だよ!」
両手で素早くレイドの手を握り、上下に動かした。
「え? え?」
「な、なんですか急に、さっきまであんなに兄さんのこと馬鹿にしていたのに」
「そうだよ。だって彼は平民の上に魔力が無かったからね」
「なのになんですかその態度は? 何を企んでいるんですか? わたしたちは格下の貴族で、魔力が無い兄さんは無能なんでしょ?」
警戒心バリバリのアリスに対して、俺は不思議そうに首を傾げた。
「へ? でも今、彼は俺に勝ったじゃないか。それってつまり、戦闘力に身分と魔力は関係ないってことだろ? 違うのかい?」
「え? いや、だからそれはわたしたちが主張していた……」
「そうだ。低俗な平民は弱い、戦闘力は魔力に直結する。それがこの世界の常識だ。だから俺は君たちの説を否定した。だけど君たちは自分たちの説が正しいことを証明した。露絵は事実を否定するほど盲目ではない。事実俺に勝ったのだからね。目の前に白いカラスを連れてきたのに白いカラスなんていない、と言う奴はバカだよバカ」
手をひらひらを動かして、俺は飄々と答えた。
「今までの非礼を詫びるよ。俺が間違っていた。戦いに身分と魔力は関係ない。このことはもっと広めるべきだ。俺を君らの仲間にしてくれないか? 頼むよ」
そう言って、俺は他の生徒たちのいる前で深く頭を下げた。
伯爵貴族の謝罪に、周囲の生徒に動揺が走った。
ざわめきの中、レイドとアリスが当惑しているのがよくわかった。
「え、え~~!? アリス、俺はどうすればいいんだ?」
――まずい!
レイドがアリスの判断を仰いで息が止まりそうだった。
アリスは俺のことを良く思っていない。
きっと、仲間入りを認めてくれないだろう。
「う~ん、これだけ謝っているし、許してあげてもいいんじゃないかな?」
「アリスがそう言うなら。うん、いいよクロード。友達になろうぜ」
「ありがとうレイド、それにアリス」
俺は勢いよく顔を上げると、レイドとアリスの手を取り強めに握った。
「お礼なんていいですよ。すぐに反省できるのはクロードさんの美点だと思いますし」
「敬語なんていいよ。俺は貴族だけど、君たちとは同学年だろ?」
「そう? じゃあクロード、これからよろしくね」
「ああ、よろしく。レイド君、アリス君、仲良くしよう、さ、僕とあっちでお勉強でもしましょう」
国民的作品の名言を口にしながら、俺は二人を連れて移動し始めた。
そして、アリスが天使過ぎて涙が出そうだった。
ここで仲間入りを断られたら、計画が大幅に狂ってしまうところだった。
だけど、アリスの鶴の一声で、俺はまんまと仲間になれた。
初対面でいきなり身分差別能力差別をして、喧嘩まで吹っ掛けたのに、本当にアリスは底なしにいい子だし、天使のような子だと思う。
人気キャラランキング一位で同人誌の数もぶっちぎりナンバーワンなのも当然だろう。
そして俺の推しである。
だけどこの子、一週間後に死ぬんだよね。
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