第13話


 作成する魔道具の効力を落とす魔道具。

 言葉にしてみると簡単なようにも思えるが、実際にものを作るとなるとその難易度はかなり高い。


 アリスは基本的に、狙った効果を出す魔道具を作ることはできない。

 つまり実際に作ることができるものを確かめながら、トライアンドエラーを繰り返して作っていくしかないのだ。


 だが開店してからすぐに休業というのはいささか外聞が悪い。

 もし性能を落とした魔道具作りができるなっても、長いこと店を閉めていたとなると客足も遠のいてしまうかもしれない。


 というわけでアリスはラケルのアドバイスを半分だけ聞くことにした。

 性能を落とすための魔道具を作ることを目標に頑張りながら、同時に魔道具店の経営もやっていくことにしたのだ。


 ただアリスだと正確な値付けや売っていいものと悪いものの区別ができないので、しばらくの間はラケルにそのあたりの判断をやってもらうことにした。

 本当はオーダーメイドで魔道具作成を受けたりするつもりだったのだが、それもそのあたりの選球眼が身についてくるまではやめるよう言われている。


 アリスが作るものの中には、本当にどうやって使えばいいかわからないようなものもある。 彼女の『収納の手袋』の中には、何に使えばいいかわからないものも大量に死蔵されているのだ。

 なのにとりあえずは実際に世の中に出しても問題がなさそうと判断してもらう魔道具を販売しながら、様子を見つつやっていくことに決めたのである。


 ちなみにラケルはあの『麻痺のフォーク』を、本当に言い値の金貨五千枚で買い取っていった。

 魔術師ギルドにお金は預けているのだが、突然大量のお金を手に入れたものの使い方がわからず、ちょっとだけ高いご飯を食べるアリスであった。



「ふうぅ~~」


 アリスは外が暗くなってきたのを確認してから、外にある『開業中』の札をくるりと開店させる。

 しっかりと『閉業中』であることを確認してから片付けをしていく。


 ちなみにラケルのアドバイスはしっかりと実践しているため、各魔道具にはその効果と値段が、アリスの達筆な字で記されていた。


「今日は、えーっと……五人だっけ。人が来てくれて嬉しいなぁ。……まぁ、売り上げはゼロだったけど……」


 『アリスの変な魔道具ショップ』の名は、着実に広まり始めていた。

 どうやら恩義を感じてくれているらしいロックが何人かに話をしてくれているらしく、ここ最近は口コミで毎日数人か入店してくれるようになっていた。


 大抵は冷やかしに来る人ばかりだが、面白アイテムを買っていくような感覚でたまに買っていってくれる人もいる。

 つい先日も、栄養満点な土が毎日ちょっとだけ湧き出るプレートをおじいちゃんが買っていった。どうやら園芸に使うつもりらしい。


 ラケルが買っていったものと比べれば微々たるものだが、それでもやっぱり自分が作った魔道具を誰かに買っていってもらえるというのはなかなかに嬉しいものだ。


(早く性能を落とす魔道具を作って、もっと人の役に立てるものを作らなくっちゃ!)


 夕方になって店を閉店したら、その後は魔道具作りの時間だ。

 今日は新しく魔道具を補充する必要もないので、より集中することができる。


 アリスは先日バザーで買うことができた物品のイデアの情報を、魔力を使って書き換えていく。

 帽子を魔道具にすることができたが、効果が明らかに強すぎる。

 これはラケルチェックを待つまでもなく、お蔵入りすることになる一品だ。


「うぅん……やっぱりそう簡単にはいかないなぁ」


 既にいくつも魔道具を作ってはいるのだが、自分が求めているのとはほど遠い効果を持つものしか作ることができないでいた。

 長いこと時間をかけるつもりではいるが、こう上手くいかないとモヤモヤはしてくる。


「ちょっと考え方を変えてみるのもアリだったり……?」


 帝都に売られている物を買って魔道具を作るのには限界がある。

 となると……残るもう一つのやり方を作成するべきかもしれない。


 アリスの魔道具作りには、再現性がかなり少ない。

 けれど彼女は何も、人が長年大切に使ってきたものからしか魔道具を作れないわけではない。


 彼女が見てびびっとくる素材を使って魔道具を作ることもできるのだ。

 彼女が自身で冒険者として活動していたのも、びびっとくるか否かを判断できるのが自分だけだからという事情もある。


 アリスはせっかくだし色々と試してみようと、帝都を出て自分で魔道具の素材集めをやってみることにした。

 ちなみにラケルにも事情を話すと、


「もしものことがあったら困る。護衛をつけるから、そいつと一緒に行ってくれ」


 と護衛をつけられることになってしまった。

 一人でも問題はないので、次からは内緒で行くことにしようと固く誓いながらも同行を受け入れるアリス。


 話をしてから数日が経ち、出発の当日。

 準備万端で店の前で待っているアリスの前にやってきたのは……


「どうも、ラインハルトです」


 赤い髪を右に流しながら微笑を浮かべる、糸目の男性――デーリッツ家公爵ラインハルト・フォン・デーリッツであった。

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