第8話
「すごい、やっぱり『アリスの魔道具ショップ』の魔道具はどれもこれも一級品ばかりよ!」
「今あるうちに、全部買っておかないと!」
「オーダーメイドで作ってもらいたい魔道具があるんだけど、いいかしら?」
比較的広いはずの店内に所狭しと並んでいるお客さん達。
置けばその日の朝のうちに売れてしまうため補充が間に合わない魔道具。
そして大量に押し寄せてくる注文の嵐。
『アリスの魔道具ショップ』は開店と同時に瞬く間に有名になり、帝都にその名を轟かせ――
「んあ……?」
ぽかぽかと暖かい日の光に、アリスはゆっくりと目を覚ます。
腕の上に頭の乗っける形で机の上に突っ伏していた彼女は、自分が眠ってしまっていたことにようやく気付く。
そして夢と現実とのギャップに、思わず大きなため息をこぼす。
「はぁ……まさかこんなに人が来ないなんて……」
アリスが思っていた以上に、魔道具店の世界は厳しかった。
『アリスの魔道具ショップ』が開店してからこれで三日目。
にもかかわらずお客さんの数は驚きのゼロ。
なので当然ながら、売れた魔道具の数もゼロである。
冷やかしすら来ないため、とっかかりすら作れていない状況だ。
別に一月や二月の赤字なら問題はないけれど、この状況が一年二年と続くようになると流石に問題だ。
金銭的な問題はあまりないとはいえ、お金というのは無尽蔵に湧き出てくるものではない。
スムーズに進んだから勢いで開店してしまったが、もっとしっかりと下準備をしておくべきだったのかもしれない。
「使ってもらえれば良さがわかってもらえるはずなんだけど……やっぱり普通の魔道具店にしか見えないのが良くないのかな?」
帝都だけで、魔道具店の数は優に二十を超えている。
そのため皆、壊れたら修理してもらったり、新品を買ったりする行きつけの魔道具店というものが既に存在しているのだ。
お客さんが行く場所が固定されてしまっているため、新しい魔道具店が食い込む余地がないのである。
そう考えると、今のやり方――アリスが参考にした、既に固定客がいるような普通の魔道具店と同じやり方ではダメだろう。
もうちょっとフックを利かせるというか……自分の他とは違うポイントをしっかりと主張できるような店にしていくべきに違いない。
幸いアリスの作る魔道具は、なんというか……独創性においては、他の追随を許さないものばかりだ。
であればそこを押し出して、唯一無二であることを示す必要がある。
「私って、恵まれてたんだなぁ」
父に魔道具の売買を頼んでいた時は、こんな手間をかける必要はなかった。
必要な物は父が揃えてくれたし、アリスはただ魔道具作りに集中していればそれで良かったからだ。
だが自分一人で店をやっていくとなれば、そういうわけにはいかない。
これからはアリスがセルフプロデュースから魔道具の管理、記帳までしっかりと自分でやっていかなければいけないのだ。
「よし、くよくよしてる場合じゃないよね。それなら善は急げだ!」
アリスは開店休業状態の店を締め、看板の取り付けを頼んだ大工さんに頼み込み、ある変更を加えてもらうのだった――。
次の日、アリスは開店前に腕を組みながら、自分の城を見つめていた。
店の二階部分には、少し変更が加えられている看板が打ち据えられている。
そこにあったのは『アリスの変な魔道具ショップ』の文字。
昨日までの看板はイケている感を出すためにポップな感じだったが、今回は変な感じを出すために血文字で書いたような少しおどろおどろしい感じの見た目に変えている。
下手をすると逆に客足が遠ざかりかねない変更だが……なに、元々一人も来ていなかったのだ。
元がゼロなのだから、人が来なくても現状維持なだけである。
これでダメだったらまた次の手を考えればいいや。
そんな風に楽観的に考えながら、暇さにまた居眠りをしそうになっているアリスだったが……カランと鳴ったドアベルの音に意識が一瞬で覚醒した。
「初めてのお客様さんっ!?」
「うおぅっ!?」
アリスが上体を起こすと、そこには第一村人ならぬ第一顧客――革鎧を身につけた、キリリとした顔つきの青年が立っていたのだった――。
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