愛会い傘

九戸政景

本文

「あー……雨とかダルいなぁ」



 雨の帰り道、大粒の雨は次々に傘をつき、鳴る音はリズミカルだった。


 帰りながら家の近くの公園まで来た時、見慣れた顔を見つけた。それは異性の幼馴染みだったが、制服や顔を濡らしながら空を見上げていた。



「よう」

「……なに」



 睨んでくる幼馴染みに俺はため息をつく。目元が赤くなっているのを見て、雨に濡れていた理由を悟った。



「ダメだったんだな」

「そうよ。笑いなさいよ」

「笑わないって」



 好きな奴の頑張りを笑う気はない。俺は幼馴染みを傘の中に入れた。



「何のつもり?」

「帰るぞ」

「止めてよ。傘なんか差したら──」



 俺は傘を傾けてから幼馴染みの唇を奪った。その瞬間、幼馴染みの顔は驚いたものに変わり、唇を離してみると、顔も赤くなっていた。



「はあ、はあ……どういうつもり?」

「これで赤くてもおかしくないだろ」

「え?」

「ほら、帰るぞ」



 幼馴染みは俺を見ていたが、やがて静かに頷いた。そして相合傘をしながら帰っていたが、心なしか雨の勢いが弱くなったような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛会い傘 九戸政景 @2012712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ