第57話 剣帝の意志

「おっ、きたか」


 ゼロニティ消滅後、部屋の中心に継承祠グラント・ポイントが現れる。

 そして、その直後だった。



『剣の試練【闘志継承】のクリアを確認しました』

『挑戦者にはクリア報酬として【剣帝の意志】が与えられます』


『継承を完了しました』

『スキル【剣帝の意志】を獲得しました』



――――――――――――――――――――


剣帝けんてい意志いし】Lv.1

 ・剣のスキル

 ・剣の装備時、HPとMPを除く全パラメータが10%上昇する。


――――――――――――――――――――



 待ちに待ったシステム音が響き渡り、それを聞いた俺は力強く拳を握りしめた。


「よしっ! これで無事に【剣帝けんてい意志いし】を獲得できたぞ。オリジナルスキルの作成は難易度が高いこともあって、性能は抜群。なにせ、無条件でステータスを上げてくれるスキルなんて滅多にないからな」


 ちなみにだが、今回の闘志継承はプレイヤーが作り上げたオリジナル試練であるため、経験値は獲得できない。

 もしそれが可能な場合、レベルの割に難易度の低い試練を作るなどして、他のプレイヤーに経験値を乱獲させることができてしまうからだ。


「まあ振り返りも程々に。目的は達成したことだし、さっそく帰還するとしよ……ん?」


 俺はふと、あることに気付いた。

 オリジナル継承祠グラント・ポイントには、これまでにスキルを獲得した人数が刻まれるのだが、現在は『7/10』となっていた。

 分子が獲得した合計人数で、分母が獲得できる最大数だ。


 しかし前世の記憶によると、【剣帝けんてい意志いし】を獲得できたのは5人。

 今回の俺を含めても、合計人数は6人になると思うのだが……


「うーん、俺が数え間違えでもしてたのか? それとも……」


 気になるが、いくら考えたところで答えは出ない。

 俺は意識を切り替え、改めて帰路につくのだった。



――――――――――――――――――――


 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:45

 HP:242/450 MP:58/225

 筋 力:80

 持久力:60

 速 度:76

 知 力:52

 幸 運:45

 ステータスポイント:0


 オリジナルスキル:【剣帝けんてい意志いし】Lv.1

 スキル:【パリィ】Lv.2、【スラッシュ】Lv.2、【マジック・アロー】Lv.1、【マジック・ボール】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1、【索敵】Lv.1


――――――――――――――――――――



 ◇◆◇



 往路と同じ道を辿り、俺は王都アレンディミアに帰還した。

 合わせて一日以上、王都から離れていたことになる。


 そして俺は、その足で宿屋に戻り――


「……ゼロス?」


 そんな俺を、シュナが出迎えてくれた。

 なんだろう。顔を合わせていない期間はたった一日なのに、不思議と懐かしさのようなものを覚える。


「ただいま、シュナ」


「うん。おかえり、ゼロス。目標は達成できたの?」


「ああ。目的通りのスキルをちゃんと習得してきたぞ」


「そっか! ならよかった」


 シュナは笑顔を浮かべてそう告げる。

 しかし表情や言葉とは裏腹に、どこか寂し気な雰囲気を漂わせていた。


 そんなシュナを見て、俺が思い出したのは『ゼロニティの幻影』と戦闘中のことだった。

 幻影に押し込まれそうになった時、俺はシュナのことを思い出して活路を見出すことができた。


 その時の高揚が残っているからだろうか。

 俺はふと、思いのままの言葉を口にする。


「だけど、あれだな」


「ん?」


「今回はソロでしか挑めない試練だったから、一人で向かったわけだが……途中でふと、シュナがいてくれたらなって思ったよ」


「っ」


 と、ここまでを口にした後、俺はようやく自分が何を言っているのか理解する。


「って、何を言ってるんだろうな俺は。自分から一人で向かうって言ったのに、今さらこんな……悪い、忘れてくれ」


「……ううん、それは難しいかな」


「えっ?」


 顔を上げると、そこには恥ずかしそうに頬をかきながらも、微笑むシュナの姿があった。


「実はね、ゼロスがいない間、少し考えてたんだ。ゼロスはすごくて、そのおかげで私も強くなれて……けど、本当は私がいなくてもゼロスは一人でやっていけるんじゃないかって」


「……シュナ」


「だから、何て言うのかな。ゼロスに必要だって言ってもらえたこと、私はすごく嬉しいよ」


「……そうか」


 シュナがそんな悩みを抱えていたなんて、これまで思いもしなかった。

 それを見落としていたのは俺の落ち度だろう。


 俺はシュナを見つめ、真っ直ぐに思いの丈を告げる。


「俺にはシュナが必要だ。これからもずっと、俺のそばにいてくれ」


 少しでもシュナの不安を取り除ければいいと思って告げた言葉。

 だったの、だが……


「…………」


「どうした?」


 シュナはなぜか無言のまま、じーっと俺を見つめてきた。

 いわゆるジト目だが、どうしてこのタイミングでこんな表情になるのだろう。


 と、俺がそんな風に考えていると、


「むぅ、まただよ……ゼロスのばか」


「シュナ?」


 なぜか続くのは罵倒の言葉だった。


 とはいえ、そこに棘のようなものはなく、

 俺から顔を背けたシュナの頬は、髪と同じ色に染まっているように見えた。



 そんなやり取りもしつつ、さらに数日後。

 とうとうアカデミー入学試験の日がやってくるのだった。



――――――――――――――――――――――――――――


ゼロスが悪いよゼロスが。


というのはさておき、実は元々のプロットで、第一章のラストはここになる予定だったりしました。

尺の都合や、ディオンとの決闘もいいヒキになると思い現状の形になりましたが、その名残で今回はまとめ感のある回になりました。


とはいえ、まだまだ本作は続いていくのでご安心ください。

次回からはとうとう入学試験編です。乞うご期待!

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