第35話 また明日

 その場で待つこと数十秒。

 シュナはギギギと、こちらにぎこちなく顔を向けた。


「ぜ、ゼロス……これ、本当に私がやったの……?」


「ああ。天冥爆ヴォイド・バースト――闇属性と聖属性を付与できる魔導士にしか使えない、最強の必殺技だ」


 シュナに対し、簡単に天冥爆ヴォイド・バーストの仕組みと効果を説明する。

 全てを聞いた後も、彼女は完全には理解しきれていない様子だった。


「よ、よく分からないけど、なんだかすごい技だってことだけは分かったよ……」


「まあ、今はそれくらいでいい。ただ一つだけ注意点があって、天冥爆ヴォイド・バーストは発動タイミングがかなりシビアなんだ。場合によっては自分が巻き込まれる可能性もあるから、しばらくは俺がいるところでしか使わないでほしい」


「分かったよ。何から何までありがとう、ゼロス」


 シュナは柔らかい笑みを浮かべつつ、そうお礼を告げるのだった。



 その後、我に返った冒険者パーティーから改めて感謝を伝えられた後、簡単な治療だけして町に戻ることになった。

 やってきた馬車に乗り、移動すること一時間。

 その間は特に何かが起きることもなく、俺たちは領都に帰って来た。


 冒険者パーティーの皆とは別れ、今はシュナと二人きりだ。

 シュナはこり固まった体をほぐすように、ぐっと両腕を上に伸ばす。


「んー、ようやく帰ってこれたね! 半日も経ってないはずなのに、随分と長かった気がするよ」


「そうだな」


 最初の出会いから始まり、臨時パーティー結成、馬車での移動、【冥府めいふ霊廟れいびょう】の攻略、状態変化という隠し玉を持っていたダーク・ソーサラーとの戦闘。

 そして最後には鉄皮熊アイアンコート・グリズリーの討伐ときた。

 半日で経験するにはイベントが多すぎたため、疲れているのは俺も同じだった。


 すると、シュナは少し戸惑った様子で話を切り出す。


「とにかく色々あった訳だけど、私にとって一番の衝撃は、もしかしたらレベルかもね……」


「レベル?」


「うん、見ての通りだよ」


 そう言って、シュナは俺にステータスを見せてきた。



――――――――――――――――――――


 シュナ・トライメル

 性別:女性

 年齢:15歳

 紋章:【魔導の紋章】


 レベル:39

 HP:312/312 MP:218/273

 筋 力:42

 持久力:42

 速 度:53

 知 力:72

 幸 運:52

 ステータスポイント:10


 スキル:【マジック・ミサイル】Lv.1、【セイクリッド・エンチャント】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1


――――――――――――――――――――



 鉄皮熊に対するダメージの9割以上を一人で稼いだおかげか、レベルが34から39まで上がっていた。

 これで再び、俺と同じレベルになったことになる。


「ねっ、驚いちゃうでしょ? だって今朝、ゼロスと会うまで私は20レベルだったんだよ。それがたった半日で倍にまで……なんだかもう訳が分からないよ」


「その意見には同意だが、ちょっとだけ残念だな」


「残念?」


「【魔導の紋章】持ちが次の成長スキルを覚えるのは40レベルだからな。あと一つでそこまで届いたんだが……」


「そ、それはちょっと欲張りすぎじゃないかな……?」


 少し困惑した様子のシュナ。

 どことなく引いている気配すら感じる。

 なぜだ。


 と、そんな会話をしているうちに別れの時間がやってきた。

 シュナは本日、もう何度目かも分からない感謝の言葉を口にする。


「改めて、今日はありがとう、ゼロス。君のおかげで色んなことを学べたよ」


「そう言ってくれるなら、俺としても救われるよ」


 ふと、ダーク・ソーサラー戦で彼女を危険に晒したことをもう一度だけ謝ろうとも思ったが、止めておくことにした。

 ここまででシュナと共に過ごす中で、彼女がそれを望んでいないのはもう分かっているからだ。


 そんなことを考える俺に対し、シュナは最後に手を振りながら言った。


「それじゃ、ゼロス。また明日ね!」


「ああ。また明日な、シュナ」


 そう言い残し、去っていくシュナ。

 そんな彼女を見送りつつ、俺はふと首を傾げる。


「あれ? そう言えば、元々は臨時パーティーとしてシュナを誘ったけど、今後について話し合った覚えがないぞ……」


 にもかかわらず、シュナは『また明日』と言い残し去っていった。

 そしてそれに対し、俺も当たり前のように『また明日』と返したわけだが……


でいいのかな?」


 明日、改めて確認する必要はあるだろう。

 だけどまたシュナと共に冒険できるのだと思うと、確かに高揚する自分がいるのも事実だった。


「まっ、なるようになるか」


 そう呟いた後、俺も踵を返し屋敷へと歩き始める。

 かくして、長い長い一日が、今度こそ幕を閉じるのだった。



――――――――――――――――――――


 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:39

 HP:390/390 MP:171/195

 筋 力:69

 持久力:53

 速 度:65

 知 力:39

 幸 運:39

 ステータスポイント:6


 スキル:【パリィ】Lv.2、【スラッシュ】Lv.2、【マジック・アロー】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1、【索敵】Lv.1


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