第29話 ゲームと現実
「セイクリッド・ミサイル!」
『ギィィィ!?』
数十秒後。
シュナの杖から放たれた眩い光弾がダーク・ソーサラーの【
それを確認した俺は、素早く剣を五回振るった。
「――スラッシュ!」
今度はタイミングも完璧だった。
最初の二発で魔力障壁を破壊した後、残る三発がダーク・ソーサラーに命中。
敵の体力を大きく削ることに成功した。
先ほどの30%と今回の45%を合わせ、これで約75%のダメージを与えられたはずだ。
「よし、あと一回だ」
俺は小さくそう呟く。
あと一度、同じことを繰り返せば勝てる。
そう確信した瞬間だった。
『キァァァアアアアア!!!』
ダーク・ソーサラーは闇纏を再び発動した後、突如として雄叫びを上げた。
その声は、まるで地獄の底から響き渡るかのような不気味さを帯びていた。
「何だ!?」
「きゃっ!」
想定していなかった事態に、俺とシュナは思わず困惑の声を上げる。
これはゲームで一度も見たことのないパターンだった。
異変はそれだけにとどまらない。
ヤツの雄叫びに呼応するように、なんとボス部屋中の墓石から黒色の魔力が漏れ出し、ダーク・ソーサラーへと集まっていく。
(墓石から、魔力を吸収している……?)
数秒後、そこにはこれまでと比べ物にならないほどのオーラを纏ったダーク・ソーサラーの姿があった。
その存在感は、まるで深淵そのものが具現化したかのようだ。
見るからに、今までのコイツとは格が違う。
「ステータス!」
――――――――――――――――――――
【
・討伐推奨レベル:45
・ダンジョンボス:【
・飽くなき探求心を持ち、自身の死後も研鑽を重ねた
――――――――――――――――――――
咄嗟にステータスを確認すると、レベルが45まで上昇していた。
そして新たに『状態:霊力開放』の文字が刻まれている。
その文言を見た俺は、大きく目を見開いた。
「レベル45……しかも状態変化だと!?」
それは『クレスト・オンライン』にも存在していたシステムであり、一定量HPが減少するなど、いくつかのきっかけで発動する。
状態変化が起きるとHPの一部が回復する他、レベルと特定ステータスが上昇し、魔物によっては新しいスキルを発動できるようになるのだ。
だが、おかしい。
俺の記憶が確かならば、状態変化を発動するのは一部の魔物だけのはず。
ダーク・ソーサラーにそんな能力はなかった。少なくとも、ゲーム内では。
(これはいったい、どういうことだ……?)
『キキキキキ』
疑問が渦巻く中、ダーク・ソーサラーが再び【
現れたのは一つだけだが、そのサイズは先ほどよりも明らかに大きい。
『キキッ』
「――――!?」
さらに驚くべきはその直後だった。
ダーク・ソーサラーは気味の悪い笑みを俺に向ける。
俺の背筋に悪寒が走る中、ダーク・ソーサラーはなんと、
「なっ!?」
これまでのヘイト管理を完全に無視する一撃。
しかも、その速度は明らかに先ほどよりも上がっている。
「――――ッ!」
シュナの表情が凍りつくのが見えた。
ここまでは万が一のことを考え、仮にシュナへ冥鎖闇球が放たれても、彼女の速度パラメータなら十分に躱せるだけの距離を置いていた。
しかし魔法の速度が上がったことに加え、想定外の事態のせいでとてもじゃないがシュナは動ける状態じゃない。
(あそこからシュナが躱すのは無理だ!)
瞬時の判断で、俺は魔力弾とシュナの間に滑り込んだ。
そして、力強く剣を振りパリィを試みる。
「パリィ――ッ!?」
だが、それは非情にも失敗に終わった。
魔法に刃が触れた瞬間に分かった。この冥鎖闇球は、今の俺がパリィできる最大火力を上回っている。
技量などどもはや関係ない。無条件でヤツの攻撃は俺の守りを突破し、そのまま身体に直撃した。
「がはっ……!」
「っ! ゼ、ゼロス!?」
激しい痛みと共に、俺のHPが大きく減少するのを感じた。
パリィが持つ最大の欠点。それは通常の防御スキルと違い、敵の威力を減少させる効果がないこと。
発動に失敗した場合、まるまるダメージを受ける羽目になるのだ。
その証拠に、たったの一撃で俺のHPは『300→93』に減少していた。
この減り幅からして、恐らく先ほどまでより火力が30%近く上昇している。
あと一撃でも同じ攻撃を浴びれば、そのまま俺は力尽きるだろう。
さらに、
「くそっ、体が……!」
冥鎖闇球が元々保有している拘束効果によって、身動きが取れなくなった。
体中に走る痛みと圧迫感の中、俺は必死に頭を働かせる。
なぜこのタイミングで、ゲームではありえなかった事態が起きているのか。
それを解き明かさないことには、挽回のしようもない。
(考えろ、なぜこんなことになった? ゲームと今とで、いったい何が違う!?)
悠長なことをしている時間はないが、不思議なことに思考できるだけの余裕があった。現実の動きがゆっくりになっているように感じる。
走馬灯――とは少し違うかもしれないが、いずれにせよこの機会を逃す手はない。
一つずつ謎を紐解いていくように、俺は『クレオン』におけるシステムを思い出し始めた。
『クレスト・オンライン』。
ストーリーやグラフィック、そして戦闘システムのクオリティの高さによって一世を風靡した大人気ゲーム。
その他にもクレオンを人気にした大きな要因として、
クレオンに登場するNPCや魔物には高性能なAIが備わっており、NPCにいたっては学習力や記憶力も高く、ほとんどプレイヤーと見分けがつかなかった。
では、魔物はどうだったのか。
NPCと同じようにAIが搭載されているなら、学習することで行動パターンが変わることもあったのではないか?
それは半分正解で、半分不正解だった。
というのも、魔物の場合もAIは一体一体に搭載されている。
そのため、ダンジョンで無限に生成される魔物に関しては、再出現するたびに初期状態のAIが与えられるため、情報の蓄積は存在しなかった。
だからこそ、特定のレイドボスなどを除き、魔物の行動パターンが著しく変わることはなかったのだ。
特にヘイト管理に関しては徹底してシステムに準じており、今みたいにこちらを嘲笑うような対象変更はあり得なかった。
(……なぜ、こんなことを思い出している?)
ここでふと、俺は自分自身に疑問を抱く。
なぜ、真っ先にAIのことを思い出したのか。
それはきっと俺の本能が、そこに重要な情報があると判断したからだ。
その直感に従い、俺はさらに思考を深めようとし――ハッと気づく。
(違う! ここはクレオン世界の1000年後ではあっても、ゲームの世界じゃない――
それに伴う大きな変化が存在するのだと、この瞬間に俺は理解した。
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