第28話 VS闇纏いの魔導霊
ボス部屋はひらけた空間となっている。
中には幾つもの墓石が乱立し、その奥に一体のアンデッドが待ち受けていた。
黒い
両手には豪奢な杖を握りしめている。
背丈は2メートルに達するほど大きく、ふわふわと宙を浮遊していた。
間違いない。奴がここのダンジョンボスだ。
「ステータス」
唱えると、目の前に情報が出現する。
――――――――――――――――――――
【
・討伐推奨レベル:35
・ダンジョンボス:【
・飽くなき探求心を持ち、自身の死後も研鑽を重ねた
――――――――――――――――――――
ダークソーサラー。
討伐推奨レベルは35で、幾つもの魔法を使用する。
その代わり接近用の攻撃手段は持っておらず、完全に魔法特化型のボスだ。
『キキキキキ』
敵は俺とシュナを視界に収め、耳障りな笑い声を上げる。
それを見た俺は、迷うことなく地面を蹴り加速した。
懐に潜り込み、斬撃を浴びせるためだ。
だが、そんな俺を前にしてもダーク・ソーサラーに戸惑いはなかった。
ヤツが杖を掲げると、杖先にある魔水晶から漆黒の魔力があふれ、そのままヤツの体を包み込む。
「――はあッ!」
数秒遅れで、俺の刃がダーク・ソーサラーに命中する。
しかし、
『キッキッキッ』
鳴り響くのは、こちらを馬鹿にするようなダーク・ソーサラーの笑い声のみ。
俺の刃は、漆黒の魔力によって完全に防がれてしまっていた。
(……まあ、こうなるよな)
これはダーク・ソーサラーが使用するスキルの一つ【
闇属性の魔力障壁を体に纏わせる魔法である。
特性効果として、この障壁に守られている時、ダーク・ソーサラーは無敵状態となりダメージを与えることはできない。
とはいえ当然、それを突破するための手段は存在する。
聖属性の攻撃であれば、この障壁を破壊できるのだ。
逆に言えばそれ以外に
だからこそ、このダンジョンの入場条件の一つに聖属性スキルの保有が含まれているわけである。
「よっと」
初撃が失敗したことを確認した俺は、バックステップでダーク・ソーサラーから距離を取る。
ここまでは想定内。
俺はダメージが通らないことが分かった上で攻撃を仕掛けた。
その理由とは、ずばり――
『キキィィィィィィ!』
けたたましい叫び声を上げるダーク・ソーサラー。
その左右に二つ、漆黒の魔力弾が現れる。
あれはヤツの持つ攻撃スキル【
直撃した相手に大ダメージを与えた後、一時的に拘束して動けなくする強力な魔法だ。
ヤツはそのまま、魔力弾を二つとも俺に向かって放ってきた。
(よし、計算通りだ)
そう。これこそが、ダメージを与えられないと分かった上で斬りかかった理由。
ダメージこそ与えられずとも、敵のヘイトを集める効果はあったのだ。
そのおかげもあり、全ての魔力弾がシュナではなく俺に向かって放たれた。
スキルの性質上、一撃でも俺に命中すればこちらの敗北は必至。
だが――当たらなければ、どうということはない!
「パリィ」
『ギィィィ!?』
パリィを発動し、二つの魔力弾を別方向に弾き飛ばす。
現在の俺のステータス、および【守護者の遺剣】の効果があれば、
攻撃を防がれ戸惑うダーク・ソーサラーを視界に収めながら、俺はシュナに向かって告げる。
「事前にも伝えたが、今のが【
「うん、了解だよ!」
力強く頷くシュナ。
そしてそんな彼女の手元には、既に聖属性の光球が浮かんでいた。
俺とダーク・ソーサラーが攻防を行っている間に準備してもらっていたのだ。
「いつでも大丈夫だよ、ゼロス!」
「よし――スラッシュ!」
『キィ!?』
俺は斬撃を放ち、ダーク・ソーサラーの頭部に命中させる。
ダメージこそ通らないものの、敵を僅かに怯ませることに成功した。
俺はそのまま叫ぶ。
「今だ、シュナ!」
「――セイクリッド・ミサイル!」
放たれる光の魔弾がダーク・ソーサラーに直撃する。
眩い光と爆発音を鳴らし、闇の鎧は瞬く間に砕け散った。
『ギィィィイイイイイイ!』
しかし、ダーク・ソーサラーの対応は早かった。
ヤツは怒りを含んだ叫び声を上げながら、一秒足らずで再び魔力障壁を展開する。だが、その色は先ほどと違い透明だった。
(やっぱりそうなるよな)
ダーク・ソーサラーは
その隙に攻撃を行い、倒し切るのが『クレオン』での攻略法だった。
たった今ヤツが展開した魔力障壁はその場凌ぎに過ぎず、耐性も存在しない。
(つまり――あの障壁に限っては、聖属性以外の攻撃でも破壊できる!)
「スラッシュ!」
俺は高速で剣を振るい、連続で五つの斬撃を放った。
一振り目は障壁にヒビを入れるだけに留まるも、二振り目で障壁を破壊することに成功。
残る三発のうち、三振り目と四振り目は、見事にダーク・ソーサラーの肉体に命中した。
『キァァァアアアアア!』
痛みに悶え苦しみながらも、ダーク・ソーサラーは何とか
その結果、残念ながら五振り目の斬撃は防がれてしまった。
俺はわずかに顔をしかめる。
(一瞬だけ発動タイミングが遅れたか。だが、次は五振り目も間に合うはずだ)
今の俺のステータスからして、スラッシュ一発につき削れるHPは約15%。
今、二振り命中したため30%近く削れたはずだ。
そして次からは三振り命中すると仮定して、一度【
あと二回同じことを繰り返せば討伐できるだろう。
仮に失敗したとしても、
「よし! シュナ、この調子で続けるぞ!」
「うん、ゼロス!」
俺の言葉に、力強く応じてくれるシュナ。
彼女も格上相手に問題なく立ち回れている。
このまま戦闘を進めてやれば、俺たちの勝利は確実なはずだ。
そう。確実のはず――
(……なんだ、この違和感は?)
――にもかかわらず、俺の胸には引っかかる何かがあった。
言語化することもできないほど小さな違和感。
もしくは、嫌な予感と言い換えてもいい。
この後に大した問題が待ち受けているとはとても思えないが、だとするならこれはいったい……
『キキキキキ』
そう考える俺の前では、ダーク・ソーサラーが気味悪い笑い声を上げながら
(いや、考えるのは後だ。今はただ、コイツを倒し切ることだけに集中しろ!)
俺は気を引き締め直し、再び飛んでくる魔法をパリィするのだった。
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