第21話 臨時パーティー結成

 少し人気のない場所に移動し、俺たちは改めて話し合うことに。

 とりあえず、初めはお互いに自己紹介からとなった。



「俺はゼロス。【無の紋章】持ちで、レベルは24だ」


「私はシュナ。【魔導の紋章】持ちでレベルは20になったばかり……って、【無の紋章】で24!?」



 シュナと名乗った彼女は、驚いたような声を上げる。


「す、すごいね。【無の紋章】でそんなにレベルの高い人、初めて見るよ」


 そう告げるシュナの口調は、決して馬鹿にするような感じではない。

 それだけこの世界において、【無の紋章】は無能の証明となっているのだろう。

 継承祠グラント・ポイントがこの時代まで伝わっていない以上、仕方のないことだ。


(とはいえ、スキルがなくてもある程度までは上げられると思うんだけどな……)


 まあ、この世界は一度でも死んだら終わりの現実。

 戦闘に向いていない紋章で無茶をする人間はそうそういないというこだろう。


 閑話休題。

 話を戻し、俺はシュナの説得を続ける。


「ああ。これでも最低限の実力はあるから安心してくれ。それで本題だが、実は次にあるダンジョンを攻略したくて、それには君の力が必要で……」


「ま、待って! ストップストップ!」


 シュナは慌てた様子で俺を制する。

 ふむ、少し性急すぎただろうか。


 するとシュナは深呼吸した後、改めて口を開く。


「その、ゼロスが私を頼りにしてくれるのは嬉しいけど、私が持っているのは【マジック・ミサイル】と【セイクリッド・エンチャント】だけなんだよ? 期待には応えられないと思うんだけど……」


「いや、その【セイクリッド・エンチャント】が俺には必要なんだ」


 そう告げると、シュナは慌てた様子で続ける。


「ま、待って、ゼロスは分かってないよ! ほら、これを見てもまだ必要なんて言える!?」


 そう言いながら、シュナは自身のステータス画面を俺に見せてきた。


 本人の許可があれば、他人にもステータスは見せることができる。

 もっとも、本来であれば推奨された行為ではないのだが……今回はシュナから見せてきたということで、俺は素直に視線を向ける。


 するとそこにはこう書かれていた。


――――――――――――――――――――


 シュナ・トライメル

 性別:女性

 年齢:15歳

 紋章:【魔導の紋章】


 レベル:20

 HP:160/160 MP:140/140

 筋 力:23

 持久力:23

 速 度:26

 知 力:40

 幸 運:26

 ステータスポイント:0


 スキル:【マジック・ミサイル】Lv.1、【セイクリッド・エンチャント】Lv.1


――――――――――――――――――――


【セイクリッド・エンチャント】Lv.1

 ・魔導のスキル

 ・属性:聖

 ・追加でMPを50%消費することで、自身の魔力に聖属性を付与する。


――――――――――――――――――――


(シュナ・……?)


 少し気になる部分があったが、ひとまず無視してステータスを見る。

 知力にパラメータを多く振り、それ以外にはバランスよく配分した(速度と幸運が気持ち多いか?)、魔導士にとって王道のステータス。

 そして何より、煌々と輝くセイクリッド・エンチャントの文字。


 ……うん、期待通りだ。


「ねっ? 見ての通り、MPを50%も追加で消費する代わりに属性を付与するだけの外れスキルなんだ。ただでさえマジック・ミサイルのせいでMPはかつかつなのに……だから、ゼロスも無理に私を誘わなくても――」


「いや、これを見て確信できた。改めて頼む、シュナ。俺と組んでくれ」


「え、えぇっ!?」


 俺の返答は想定外だったのか、シュナが再び驚きの声を漏らす。

 畳み掛けるように俺は続けた。


「当然、まずは臨時パーティーでいい。そのスキルの有効性についても、ダンジョン道中の魔物相手に指導するから危険性はまずないはずだ。できればその後のボス戦にも協力してほしいんだが、気が乗らないようなら無理にとは言わない」


「えっと、その……」


「まずは一度だけでいい。一緒にダンジョンへ来てくれないか?」


「…………」


 頭を下げて打診する。

 ここで断られるようなら、これ以上は押し切れない。

 シュナにも冒険者としての方針があるだろうし、それを捻じ曲げるつもりまではないからだ。


 だが、先ほど彼女はパーティーを求めていた。

 それがもし、ダンジョン攻略を通して強くなりたいという意思が少しでもあったからであれば――


 俺の胸中に期待と不安が入り混じる中、シュナは小さく口を開く。


「……本当に私が、ゼロスの役に立つんだよね?」


「ああ。ぜひ力を貸してほしい」


 俺は顔を上げ、真剣な表情で告げる。

 シュナは数秒ほどそんな俺を見つめ返した後、覚悟を決めたように頷いた。


「分かったよ、ゼロス」


「っ、受けてくれるのか?」


「うん。それに私だって、一緒に組んでくれる相手は欲しかったわけだし……よろしくね、ゼロス!」


「ああ。よろしく、シュナ」


 俺はシュナと握手を交わす。

 こうしてここに、俺とシュナの臨時パーティーが結成したのだった。

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