第22話 【冥府の霊廟】

 俺とシュナはダンジョンに向かう前にまず、アイテム屋で大量の魔力回復薬ポーションを購入した。


 今回、俺たちが向かうダンジョンは【冥府めいふ霊廟れいびょう】。

 攻略推奨レベルは35であり、アンデッド系のモンスターが多く生息する。

 そしてボスに挑戦する前にレベリングを行おうと思っているのだが、そのためにはシュナにも魔法を何度も撃ってもらう必要がある。

 しかし、肝心のマジック・ミサイルやセイクリッド・エンチャントは燃費が悪く、そこをポーションで補うわけだ。


 俺がポーションを20本以上購入するのを見て、シュナは「そんなに買うの!?」と驚いていた。

 まあ、ポーションにクールタイムが存在することも考慮すれば、使い切ることはないだろうが……念を入れておくに越したことはないだろう。


 あとはシュナの杖も新調しようかと考えていたのだが、彼女の杖は知力+15と十分な性能を有していたため、ひとまずはこのままとなった。

 駆け出し冒険者としてはかなりの装備と言えるだろう。



 そんなやり取りがあった後、俺たちは馬車も利用し、町から1時間ほど離れたところにある墓地へと移動した。

 ここはかつて集落が存在していた跡地であり、墓地以外に目立った場所はない。

 ダンジョンが存在する地域だからか、1000年も経過しているというのに外観もそのままのようだ。


 そこに辿り着いた時、シュナはまず戸惑いの声を上げた。


「ねえ、ゼロス。本当にここで合ってるの? この辺りにダンジョンがあるなんて話、聞いたことないけど……」


「大丈夫だ。こっちについてきてくれ」


 不安そうなシュナを連れ、俺は墓地の奥に移動する。

 そこには一つだけ大きな墓石が置かれていた。


 ……うん、間違いない。


「よし。シュナ、今から教える言葉を、これに触れながら言ってくれないか?」


「えっ? う、うん……」


 シュナは恐る恐るといった様子で墓石に手を触れると、俺の言葉を復唱するように告げた。


「"魔力の潮流よ、我が資質を試せ。今こそ叡智の扉が開かれんことを"」


 それは【飛鳥落勢ひちょうらくせい】にて、試練を受ける時にも使用したキーワード。

 隠し扉を開く他、隠しダンジョンそのものも開放できる。


 その証拠に、



『キーワードを確認しました』

『紋章名:【魔導の紋章】を確認しました』

『該当スキルを保有していることを確認しました』

『条件を満たしています。ダンジョンの扉が解放されます』 



 そんなシステム音が鳴り響いた後、ギギギと音を立て墓石がズレ動く。

 するとその下には、迷宮へと続く回廊が姿を現した。

 ここから先が【冥府の霊廟】だ。


「よし、準備も終わったことだし、さっそく挑むとするか」


「………………」


「シュナ?」


 なぜかプルプルと震えて無言なままのシュナに呼びかける。

 彼女はぎこちなく俺に顔を向けると、ゆっくりと切り出した。


「ね、ねえ、ゼロス……これはいったい?」


「ん? ああ、ここの隠しダンジョンに挑戦するためには【魔導の紋章】だけじゃなく、神聖系のスキルが必要なんだ。一応、俺の【無の紋章】でも紋章の条件はクリアできるんだが、スキルに関してはどうしようもなくてな。シュナが協力してくれて本当に助かるよ」


 心からの感謝を込め、シュナにそう伝える。

 しかし不思議なことに彼女が落ち着きを取り戻すことはなく、それどころか――



「――そもそも、隠しダンジョンって何!?」



 全力でそう叫んだ。


(そうか。この世界ではそこからだったか……)


 俺は軽く隠しダンジョンの説明をシュナにした後(いまいち理解しきれていなかったみたいだが)、【冥府の霊廟】に足を踏み入れるのだった。



 回廊を降りた先は、アンデッドの生息地らしく異様な雰囲気を纏った迷宮になっていた。

 とはいえ最低限の明かりは存在しているため、移動する分には特に問題ない。


「な、なんだか少し怖い感じだね……いきなり魔物が襲い掛かってきそうな気配もあるし」


 後ろではシュナが不安そうにしている。

 そんな彼女に向かって、俺は安心させるように言った。


「大丈夫だ、できるだけ魔物には遭遇しないように向かうし、しばらくは一体でいる相手しか狙わないから」


「えっ? それができるならもちろん一番だろうけど、私やゼロスはそれに適したスキルを持っていないから無理なんじゃ――」


「索敵」


「――へ?」


 俺はさっそく、習得したばかりの索敵を使用する。

 MPを消費するため使いどころを選びたいスキルだが、今回に限ってはポーションも大量に用意してある。

 とりあえずシュナのレベルが安全域に達するまでは保険をかけておくとしよう。


「…………」


 そう思いながら後ろを見ると、シュナは目を見開きながら口をパクパクしていた。


「ぜ、ゼロス。今のって、もしかしてスキル……?」


「ああ。実はな――」


 今回パーティーを組むことになった以上、彼女には俺がスキルを扱えることを教えるつもりだった。

 そもそもスキルなしでは、俺でもこのダンジョンを攻略することは難しいからだ。


 ということで、以前にイルとした時と同じような説明をするも、シュナは受け止めるまでしばらく時間を有したようだった。



 数分後、ひとまず状況を理解してくれたシュナを連れ、俺たちは移動を始める。

 一体目の魔物と遭遇したのは、そのすぐ後のことだった。

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