第20話 赤毛の少女

 【廃れた砦】を攻略し、【守護者しゅごしゃ遺剣いけん】を獲得した翌日。


 レベル24を迎え、新しい武器もゲットできた俺は、次に向かうダンジョンについて頭を悩ませていた。


 シルフィード領から行ける範囲にあるダンジョンで、どうしても欲しい魔導のスキルが一つある。

 だが、そのためには一つだけ大きな問題があった。


「今の俺じゃ、そもそも挑戦できないんだよな……」


 そのダンジョンは【魔導の紋章】だけでなく、ある系統のスキル保持者でなければ挑むことができない。

 俺はまだそのスキルを持っておらず、手に入れる手段も存在していなかった。


「ひとまず、しばらくは他のスキルを集めるべきか」


 そう考えながら、俺はギルドにやってきた。

 ここ数日の攻略で得た魔石を売却するためだ。


 受付の列に並んでいると、ふと隣から声が聞こえてきた。


「そっか……やっぱり今の私が所属できるパーティーはないんだね」


 それは少しの柔らかさを含んだ少女の声。

 視線を横にやると、そこには肩まで伸ばした赤色の髪が特徴的な、可愛らしい少女が困った表情で立っていた。

 魔導や治癒の紋章持ちなのか、その手には杖が握られている。


 受付嬢は申し訳なさそうに彼女に告げる。


「申し訳ありません。シュナさんのレベルは20とのことですが、そのレベル帯でマジック・ミサイルしか魔法が使えないとなると、なかなか受け入れてくれるところはなくて……」


(……ふむ、なるほど)


 状況が少し見えてきた。

 彼女は【魔導の紋章】持ちで、初期スキルとして【マジック・ミサイル】が与えられたのだろう。


 【マジック・ミサイル】は火力こそ高いものの燃費が悪く、初心者には扱いづらいスキルだ。

 そのスキルしか持っていないとなると、パーティーから募集がかからないのも納得できる。


 しかし、ここである疑問が浮かんだ。


(あれ? 使える魔法が一つだけ? 成長スキルはどうしたんだ?)


 成長スキル。

 それはレベル上昇に伴い獲得できるスキルであり、【無の紋章】には縁がないスキルだ。


 何が与えられるかはランダムだが、低レベル時に獲得する成長スキルは汎用性の高いものがほとんどとなっている。

 【魔導の紋章】なら、レベル20で一つ目の成長スキルを獲得できるはず。

 にもかかわらず、【マジック・ミサイル】しか使えないというのは不可解だった。


 その疑問の答えは、少女の次の言葉で明らかになった。


「うん、しょうがないよ。せっかく新しく得た【セイクリッド・エンチャント】だって、大量のMPを消費して聖属性? を付与するだけで威力が上がりもしないし……そんな人がパーティーにいても足手まといになっちゃうよね」


 えへへ、と残念そうに笑う少女。

 だが、それを聞いた俺は思わず動きを止めた。


(セイクリッド・エンチャントだと……!?)


 聞き間違いじゃない。

 それは奇しくも、今の俺が最も求めていたスキルだった。

 本来なら、攻略推奨レベル100を超えるダンジョンの継承祠グラント・ポイントでしか入手できないレアスキルだ。


 それをまさか、この低レベル帯で保有している者がいるなんて……


(このチャンスは逃せない!)


 俺はほとんど反射的に列を飛び出すと、少女のもとに駆け寄った。


「そこの君!」


「えっ? 私、ですか……?」


 きょとんと首を傾げる少女。

 そんな彼女に向け、俺は力強く言った。



「頼む! 俺と一緒にダンジョンへ行ってくれないか!?」


「…………へ?」



 赤毛の少女は何を言っているか分からないとばかりに、抜けた声を零す。

 しばらくの無言の後、少女は「えぇぇぇぇぇ!?」と驚きの叫びを上げた。



 そしてこれこそが、俺と彼女――シュナの出会いだった。

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